【Goodpatch・26歳】自分の人生は、ドラマチックにデザインしよう

2021年4月9日(金)

“あっち側”に行けない私

藤原彩さん/グッドパッチ Design Division Experience Design Unit

—— 学生時代から、UXデザイナーとして働くことを志していたのでしょうか?

いえ、思ってもみませんでした。

私は学生時代に「まちづくり」を専攻していて、学んでいた内容は社会学や文化人類学に近い学問です。

当時は自分の専攻が「デザイン」につながるとは想像していませんでした。

また、卒業生の多くは、地方銀行や市役所で働いています。

UXデザイナーとして働いている先輩を見たことがなかったですし、そもそもそうした職業があることさえも知りませんでしたね。

—— ではなぜ、UXデザイナーとしてのキャリアを歩むことに?

全てのきっかけは、親友が海外留学をしたことです。

私が所属していた北九州市立大学は、実学に力を入れていたり、起業家育成プログラムが用意されていたり、カリキュラムに特色があります。

キャリア意識の高い学生が、多数在籍していました。

一方、私とその親友は、どちらかといえばキャリア意識の低いタイプでした。

“自分を持っている同級生たち”を尊敬していましたが、同じように夢を追う勇気はなく、「なかなか“あっち側”には行けないね」という会話をしていたことを鮮明に覚えています。

でも、ある日突然、友人が「留学することにした」と言い出したのです。

昨日まで“こっち側”にいたはずの彼女が、いきなり“あっち側”に行ってしまう。

「そうなんだ」と気丈に振る舞いましたが、内心は「自分だけが、自分の人生について真剣に考えていない」という焦りでいっぱいでした。

とはいえ、焦っているだけでは、なにも始まりません。

親友につられるように、私も将来について真剣に考えはじめました。

でも、考える材料となる経験も知識もないので、なかなか答えが出ません。

そこで、まずは将来について考えられるだけの経験を積もうと、彼女と同じタイミングで休学を決意し、長期インターンに挑戦すべく一人で上京しました。

点と点がつながり、線になる

エンジニアとしてインターンに参加することが決まっていたのですが、突然そのプランが立ち消えになってしまい、なにもすることがない状態から上京生活がスタートしました。

友達もいないので、とりあえず就活イベントに参加しながら、働く場所を探すことにしました。

がむしゃらに足を動かしていたら、幸いにも、経理のインターンとして働けることになりました。

ただ、積極的にコミュニケーションを取りながら仲間とコラボレーションするのが好きだった自分にとって、当時行っていた仕事内容はそこまで相性が良くありませんでした。

そこで、職を変えながら、イベントで知り合った大人の皆さんにキャリアを相談していたのです。

そんなときに紹介されたのが、Goodpatchでした。

私が専攻していた「まちづくり」は、「地域の課題をヒアリングし、課題を見つけて、まちの住人が主体となって持続的に取り組める解決策を一緒に模索していく」というものです。

そのプロセスはデザインのアプローチと近似していて、Goodpatchは、大学での学びをそのまま生かせる環境だったのです。

—— UXデザイナーのキャリアを歩むきっかけですね。

なかなかやりたいことに出会えていなかったので、「やっと面白そうな仕事が見つかったぞ」と心が躍りましたね。

話を聞いた時点ですでに興味があったので、面接には入念にリサーチをして臨もうと、ネットで拾える情報のほぼ全てに目を通していたと思います。

そこで、代表の土屋のブログに出会いました。

創業から現在に至るエピソードや、事業を通じて実現したい世界を知り、胸が熱くなるのが分かりました。

好奇心がかき立てられたのです。

実際インターンに参加してみると、自分のやりたいことが実現できそうなイメージが湧きました。

プログラムの内容は「移動中の不満を解消する」をテーマに、チームに分かれてアプリを開発するというものでした。

アプリをつくるまでの流れ——。つまり、UXデザインには、私が学んでいた「まちづくり」との共通点が少なくありませんでした。

デザインを専攻していたわけではないものの、数年後に働いている姿が鮮明に描け、入社を決意しました。

そして、UXデザイナーとして、社会人キャリアをスタートしたのです。

UXデザインの根底は“共感力”

—— 入社から現在に至るまでの変遷について、教えてください。

入社1年目から、UXデザイナーとしてクライアントワークのプロジェクトにアサインされました。

担当していたのは、サービスの体験価値を向上させるためのリニューアルや、よりサービスを成長させていくための拡張性の高いプロダクトづくり、プロジェクトを達成に導くためのチームづくりです。

現在はメンバーのマネジメントから、プロダクトの品質にまで責任を持つ、クオリティーマネージャーとしても働いています。

—— UXデザイナーとは、具体的にどのような役割を持つ職種なのでしょうか?

User Experience(ユーザーエクスペリエンス)、つまりユーザーがサービスを使った際に得られる体験をデザインする役割です。

しかし、「ただ使いやすい」サービスを設計するだけでは、UXデザイナーが発揮すべき価値として不十分です。

まずは、クライアントが社会に対してどのようなインパクトを与えたいのか、サービスに携わったメンバーやスタッフが普段どのような思いで働いているのかといった、背景を汲み取った設計をする。

そのうえで、持続的に価値提供できる環境づくりをすることに、UXデザイナーの存在価値があります。

というのも、世の中には、機能が似通ったサービスがあふれかえっているから。

私たちが生きているのは、会社が持つビジョンやミッション、届けたい思いをサービスで表現しなければ、ユーザーに選んでもらえない時代です。

ユーザーが本当に欲しいものと、提供すべき価値をつなぎあわせ、機能性の高さを超えた価値を見いだしてこそ、UXデザイナーと呼ぶにふさわしいと考えています。

—— 藤原さんが考える、 UXデザイナーに求められる素養について教えてください。

共感力と調整力です。

優れたサービスをつくりあげるには、関わるステークホルダー全員に価値を届けなくてはいけません。

UXデザイナーの仕事は価値を見いだすことですから、それぞれのステークホルダーの心に寄り添う共感力がなければ、役割を果たせないのです。

サービス開発の起点となる発案者や経営者の思いを汲み取り、それを実現するためにユーザーの声を聞き、反応をもとに軌道修正を繰り返す。

関わる全てのステークホルダーの代弁者となり、向かうべきゴールへと導く力が求められると思います。

また、ゴールに向かって進むためには、調整力も求められます。

というのも、プロジェクトを推進する旗振り役の意見が、関係者と異なるシーンが出てくるからです。

でも実は、伝えたいことが誤認識されていたり、方法論が違うだけだったり、少しのズレがあるだけの可能性があります。

そこに気づき、ズレを直して、仲間が同じ方向を向いて前進できるよう指針をつくる。

共感力と調整力を駆使し、ゴールに向かう環境づくりができれば、 UXデザイナーとしての役割を全うできると思います。

迷ったら、ドラマチックな方向へ

—— UXデザイナーとしてキャリアをつくり、現在はマネージャーを務める藤原さん。ご自身のキャリアを振り返り、満足いく社会人生活を送れていると感じますか?

尊敬する上司と私を比較すると、まだまだ未熟です。

それでも今の仕事にやりがいを感じていますし、働いている自分が好きなので、その点においては満足できているのではないかと思います。

—— 満足いく社会人生活を送れている理由は、なぜだと思いますか?

「ビジョンを体現する会社」を選んだからだと思います。

素敵なビジョンを掲げている企業はたくさんありますが、ビジョンと事業に一貫性がある企業はそこまで多くありません。

会社は絶えず変化していくものですが、変化の過程でビジョンから離れてしまう企業が少なくない。

私はビジョンに向かってまっすぐ走っている点に惹かれて入社したからこそ、役割が変わっても働くことにやりがいを見いだし続けられているのだと思います。

—— これから社会に出る若い世代に向け、伝えたいことはありますか?

「今この瞬間の感情を大切にしてください」ということです。

私は学生時代、自分がUXデザイナーになるなんて想像もしていませんでした。

また、“あっち側”に行く勇気がない——つまり、キャリアに対して熱い思いがあるタイプでもありませんでした。

それでも今、満足のいくキャリアを歩めているのは、その時々の感情を大切にしてきたからです。

焦りを素直に受け入れ、好奇心に従った結果が、今の私を形作っています。

正直なことを言えば、これから先やりたいことが決まっているわけでもありません。

岐路が来たら、その時の感情に従って意思決定をしようと思っています。

ずっと大切にしているのは、尊敬している上司が私にくれた「自分の人生なんだから、ドラマチックにしなさい」という言葉です。

人生に悩みはつきものですが、人生は楽しむためにあると思っています。

周囲の声に流されそうになったり、他人と自分を比較してしまったり、迷いが生じてしまうときは、胸が熱くなる方向に進んでください。

自分の人生ですから、ドラマチックにデザインすればいいのです。

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取材・構成:オバラミツフミ、編集:井上茉優、撮影:遠藤素子