【CEO】人生を変える「メンター」の見つけ方
2020年10月30日(金)
門奈さんがLoco Partnersの門を叩いたのは、大学1年次のこと。受講した大学の講義で、「大学の中に閉じこもっていてはいけない」と告げられたことが長期インターンに参加するきっかけになった。
「入学して早々、教授に『世界に飛び出すか、今すぐにスタートアップ企業でインターンをしなさい』と言われたんです。在学していた慶應SFCは、いわゆる日本の大学とは違ったユニークな校風があります。そうしたアドバイスを複数の教授から受けたことで、Loco Partnersで長期インターンを始めました」
Loco Partnersをインターン先に選んだのは、「たまたま」とのこと。先輩に篠塚氏を紹介され、「ソーシャルメディアや旅行に関する事業を展開している」と聞き、その場で働くことを決めた。
「初出社日、事務所についても篠塚さん以外のメンバーがなかなか出社しません。『他の方はいつ出社されますか?』と聞いたら、『メンバーは私たちだけだよ』と。その時に初めて、自分が2人目のメンバーだと知りました。『いやいや、聞いてないよ』と(笑)。
でも振り返ってみれば、だからこそ濃密な時間を過ごすことができたと思います。何をするにも分からないことだらけで、いったい何から学び始めればいいのか見当もつかない。そんな状況下で、どんどん仕事が飛んでくるのです。当時の心境を言葉にするなら、“暗闇の中でボクシング選手にボディブローを喰らい続けるような状態”でした」
2人で立ち上げた組織は、門奈さんが退職する際には200人規模になっていた。複数の投資シリーズを経験し、KDDIグループにもジョイン。事業立ち上げ、売却、PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション / M&A後の効果を最大化するためのプロセス)と、篠塚氏と“同じ空気”を8年間吸い続けた。
門奈さんに篠塚氏からの教えを尋ねると、口元に手を当て、過去を噛み締めるかのようにゆっくりと口を開いた。
「彼にはたくさんのことを教わりました。仕事がうまくいかず、何もかも投げ出したくなった時に、『仕事にも人生にも波があり、うまくいかない時も当然ある。その時に堪えることができれば、また必ず良い波がやってくる』と教えてくれたこと。
Loco Partnersに入社するか、大企業に入社するかで迷っている時に、『選択それ自体に正解を求めてはならない。選択したことを運用と改善によって正解にすることが大切だ』と教えてくれたこと……。数え出したらキリがありません」
数ある学びの中でも、「強いて一つを挙げるなら、マインドセットです」と門奈さんは言う。今、自分が経営者になったことで、篠塚氏の凄みをヒシヒシと感じている。
正式にLoco Partnersへ入社した1年目、門奈さんは中国市場の開拓を任されていた。しかし、アポイントを取った企業のほとんどに契約を断られ、組織の立ち上げにも苦心していたそうだ。
「何もかもうまくいかず、1人、中国のホテルで泣いていました」
そんな時、支えになったのは、篠塚氏の困難を楽しむマインドセットだったそうだ。
「会社を経営していると、何度も困難にぶつかります。起業して間もない今は特にそうです。そうした困難を乗り越えるには、心が折れそうになったり、体が疲弊したり、当然苦労が伴いますよね。でも篠塚さんはそれを明るいものだと捉え、まるでお祭りのように楽しむのです」
「Reluxの時も本当に大変でしたが、起業家はみな、そうした経験をしてきたのだなと。社会に新しい価値を生み出そうと自ら起業した今、あの経験は、僕の心の強さになっています」
X Asiaが大切にしている価値観“Enjoy Working”には、篠塚氏の教えが少なからず影響しているそうだ。
「仕事を楽しむ力を持って初めて、困難を乗り越える心の持ちよう、不利な状況を打破する運を手に入れられるのだと思っています」
苦労時代を思い出し、今につながる当時のエピソードを振り返る門奈さんの目には、笑顔ながら涙が光っていた。
メンターを持つ効能として、しばしば「知見の共有」が挙げられる。しかし門奈さんは、「それはメリットの一つですが、本質ではありません」と語る。
メンターがなぜ重要なのか。それは、弱い自分に正面から向き合えるからだ。
人は1人だと弱く、現実から目を背けてしまう生き物である。メンターは、弱った自分を孤独からすくい上げ、はい上がって前進する道筋を示してくれる。
「起業家として成功することを目指す上で、絶望や困難から何度だってはい上がる胆力が必要です。自らそれを培うよりも、早い段階でメンターと呼べる存在を見つけることをお薦めします」
「将来起業を考えているのなら、起業家のそばで学ぶことが近道になる」というのが門奈さんの考えだ。起業を一つのジョブ(職務)と捉え、それを実行するビジネスパーソンのそばにピタリとつき、起業とは何か、CEOになるとはどういうことなのかを、自分の頭で理解できるまで学ぶべきだと言う。
「これは、今すぐ実践できるフィールドワークです。特にアーリーステージの起業家のそばにいることができれば、事業の立ち上げからグロースまでを、肌触りを持って経験できる可能性があります。
僕は篠塚さんの下で起業家修業をしたことで、自分1人では出せないスピードの成長ができたと思っています」
「優れたメンターを見つけるには、どうしたらいいですか?」と尋ねると、「そんなに難しく考える必要はないですよ」と門奈さん。出会う人、一人一人に真摯に向き合うことこそが、メンターに出会うコツだと語る。
「篠塚さんが将来成功しそうだとか、そうした打算的な考えで時間を共にしていたわけではありません。何者でもない大学生だった僕にチャンスをくれた彼に、できる限りの努力で報いたいとガムシャラになっていたら、結果的に“良い関係性”になっていたというのが実際のところです。
また、メンターは必ず1人であることもないです。出会う全ての人を『一度きりの人生で巡り合った大切な存在』だと捉え、真摯に付き合っていけば、きっと素晴らしい学びが得られるはず。こうして取材していただいているこの時間も、僕にとって学びです」
門奈さんが経営するX Asiaに、篠塚氏は取締役として参画するそうだ。打算なき良い関係性が今後も続いてくことに関して「また“ドンパチ”できそうです」と笑う。
「今回彼に非常勤役員の形で入ってもらったので、再び一緒にスタートアップシーンで新たな挑戦ができると、とてもワクワクしています。会社では、今度は僕が次の世代のメンティーをして、機会を提供しまくっていけたら嬉しいです」
取材・文:オバラ ミツフミ、編集:伊藤健吾、デザイン:堤 香菜、撮影:竹井晴俊