「CMをつくる仕事」「広告のキャッチコピーを書く仕事」といった華やかなイメージから、就活生に根強い人気を誇る広告代理店の仕事。
とはいえ、現在の広告代理店で重視されるのは広告を制作したり、配信したりすることだけではない。
クライアントの製品・サービスが売れる仕組みを考えたり、時にはその会社の存在意義さえをも再定義するようなマーケティングプラニングの仕事の重要性が高まっている。
大手広告代理店・博報堂で働く喜田村夏希さんは、「マーケティングプランナー」として活躍する。
製薬会社やコンサルティングファームを経て現職に至る彼女は、「マーケティングプランナーの仕事は時代とともに変化する」と語る。
なぜ、クライアント企業にとって部外者である広告代理店が、マーケティングに携わるのか。転職を経験してきたからこそ知っている、マーケティングプランナーという仕事の本質をひもといていく。
—— 喜田村さんにとって、マーケティングプランナーとはどのような仕事でしょうか?
「価値を生活者に届ける仕組みづくり」をする仕事です。
広告会社といえば、テレビCMや新聞広告など、消費者の目に触れる部分のみを担うイメージを持たれがちですが、実際は異なります。
経営者と肩を並べて企業全体のビジョンの策定に携わることもあれば、商品と消費者の接点である広告の制作に携わることもあります。
誰に、どんな価値を、どのような方法で届けるのか——。価値の創出から伝達まで、常にクライアントに寄り添い続けるのが、私たちの仕事です。
—— 具体的にはどのような業務を行っているのでしょうか?
現在は、大手化粧品会社や外資系ヘルスケア企業、バイオベンチャーなどを担当し、ビジョンの策定や事業開発支援、新商品開発支援、テレビCMやSNSなどの広告物の制作を行っています。
以前の広告といえば、お茶の間で流れるテレビCMのような、いわゆるマス広告のみが主流でした。
しかし、インターネット技術の進展により、広告はデジタル領域に進出しました。
インターネット記事やSNSへの広告掲載が可能になるなど、広告のあり方が以前より多様になったのです。
これは企業にとって、選択の幅が広がったと同時に、その中から最適な選択肢を選び取る必要性が生じたことを意味します。
いま一度、商品や企業それぞれが持つ価値を、どのように伝達すべきか、精査することが求められているのです。
価値を、事業や商品・サービスに、さらに広告物に落とし込むまでの一連の流れが、私たちマーケティングプランナーの仕事といえるでしょう。
—— 広告のあり方の変化は、マーケティングプランナーの業務にどのような変化をもたらしましたか?
以前よりも、クライアント企業の経営層の方々にアプローチし、企業活動の礎となる企業ビジョンの策定にまで関与する場面が多くなりました。
彼らにとって、広告会社のマーケティングプランナーはあくまで外部の人間です。
しかし、第三者である私たちが、企業の根幹をなすビジョンの策定に介入することには、大きな意義があると考えています。
—— それは、なぜでしょう?
喜田村:内部の人たちがユニークだと気づいていない“当たり前”のことが、世の中ではユニークで、独自価値となり得ることが多くあるからです。
インターネット技術の進展は、広告の多様化だけでなく、好き嫌いによって細分化された“無数のお茶の間”を生み出しました。
以前のように、みんなが同じテレビ番組を視聴する時代は終わり、自分の嗜好に合った情報だけを自由に選び取れるようになっています。
もはや、一様の広告で消費者全体に価値伝達することは、不可能な時代なのです。
漠然と全体に訴求するのではなく、企業のユニークな考えや描く未来に共感してくれるファンを見出し、その人たちをターゲットとして価値伝達する方が効率的といえるでしょう。
ただ、より多くの人々に企業のファンになってもらうためには、明確な企業ビジョンを体現した商品やサービス、そしてそれらを生み出す社員が不可欠です。
そこで重要となるのが、ビジョン策定のプロセスです。
ときにはワークショップも用いて、企業の目指す世界や提供したい価値、ユニークネスを、社員全員で見直していく。
さまざまな部署や年齢の方々を巻き込み、一つ一つ確認作業をする過程こそが、ビジョンの浸透した事業や商品・サービスづくりのために不可欠です。
広告会社がこのプロセスに関わることで、“外”の視点を客観的に取り入れながら、ファシリテーターとして社内のより多くの人を巻き込み、企業の持つユニークネスが詰まったビジョンの策定と、それに対する社員の深い理解を導くことができるのです。