「私たちが手がけるバッグは全て、私たちが欲しいと思ったものです」。
レザーブランド「objcts.io」のデザイナー・角森智至(つのもり さとし)さんは、自身がデザインしたバッグを手に取りながら、はにかみの表情を見せる。
「objcts.io」は、「イノベーターのワードローブ」をコンセプトに製品開発を手がており、IT・ファッション業界に関わる人々の間でファンが急増するブランド。
角森さんは、その全ての製品のデザインを手がけている。
新製品が発表されると、SNSにファンから購入希望の声が多数寄せられる人気ぶりだが、過去には「愛される製品を作れず、挫折した経験がある」という。
老舗バッグブランド・土屋鞄製造所でランドセルを手がけ、海外の工場で言葉の通じない職人と技術で対話し、独立後に「目の前の一人のために」バッグを作る。
角森さんのキャリアを振り返り、デザイナーが持つべき矜恃について考えた。
—— もともと、バッグのデザイナーになることを志していたのですか?
実家が呉服屋を営んでいたこともあり、ファッションが身近な環境だったので、将来は「自分のブランドを立ち上げたい」と思っていました。
ただ、バッグをデザインしているとは想像していませんでしたね。
バッグデザイナーのルーツとなった文化服装学院に入学したのは、バッグ作りを学ぶためではなく、「作り手としてのキャリア」を積むためです。
自分のブランドを持つ以上、製品に対する深い理解を持つ必要性を感じていて、少なくとも「作り手としての視点」が不可欠だと思っていました。
—— バッグのデザイナーになったきっかけを教えてください。
スポーツに興味があったこともあり、入学時点では、シューズを専攻しようと考えていました。
しかし、一年次にバッグの製作を学んだことがきっかけで、志望を変えました。
バッグ作りが、自分の性に合っていたのです。
一年次にシューズとバッグ、帽子とジュエリー製作を学んで、それぞれの製作を通じて感じたのは、「バッグはものづくりの自由度が非常に高い」ということ。
例えば、シューズは足の甲の形を意識して作らなければいけないし、帽子はヘッドサイズに合わせて作る必要があります。
一方でバッグは、ものを入れて運ぶことさえできれば、様々なアイデアをもとに製作することができます。
その自由度の高さは、ファッションが大好きな私にとって大きな魅力でした。
—— ファーストキャリアでは、創業から55年を数える老舗鞄メーカー・土屋鞄製造所に就職しています。その理由を教えてください。
華美な装飾をしない普遍的なデザインで、かつ品質に優れている同社の製品が好きでした。
素材から製法までとことんこだわる姿勢が、職人としてキャリアをスタートするうえで、非常に魅力的に映ったのです。
また、老舗であるのにもかかわらず、若い世代が中心となり、急成長していたことも大きな魅力の一つ。
私が就職活動をしていた時期は、2代目社長に就任した土屋成範さんが、ランドセル事業を大きく成長させていた時期でした。
入社後に知ったことですが、若い世代にどんどん任せるのが、彼のスタイルです。
インターンに参加してみて、若い世代が現場を主導している雰囲気を感じ取り、「この会社に入れば、きっと自分のキャリアのプラスになるはずだ」と直感し、入社を決めました。