「文学研究」と「UI/UXデザイン」。無関係に見える2つの分野で、「実は思考プロセスが似ている」と語るデザイナーがいます。
杉友駿介さん(26)は、東大で文学研究に没頭しながら、在学中に友人のスタートアップを手伝ったのがきっかけで、新卒としてUI/UXデザイナーとしてのキャリアを歩み始めました。
スマホアプリの開発でも注目の「UI/UXデザイナー」の役割とは。(聞き手:JobPicks編集長 野上英文)
「文学研究」と「UI/UXデザイン」。無関係に見える2つの分野で、「実は思考プロセスが似ている」と語るデザイナーがいます。
杉友駿介さん(26)は、東大で文学研究に没頭しながら、在学中に友人のスタートアップを手伝ったのがきっかけで、新卒としてUI/UXデザイナーとしてのキャリアを歩み始めました。
スマホアプリの開発でも注目の「UI/UXデザイナー」の役割とは。(聞き手:JobPicks編集長 野上英文)
ユニークな働き方をする次世代の担い手たちに、15分間のインタビューをする動画番組『働くっていいかも!』。いまどんな仕事をしているのか、なぜそのキャリアに至ったのか、これから何をしたいのか......。友人の紹介もしてもらって、“ビジネスの輪”をつないでいきます。
今回注目したジョブ(職)は「UI/UXデザイナー」。BtoBプロダクトのUI/UXデザイナーである杉友さんに話を聞きました。冒頭はUIデザインとUXデザインの目的を教えてもらいました。
━━杉友さんは、普段どのようなプロダクトをデザインしていますか。
杉友:主に、大企業の新規事業開発に携わる人たちに向けたプロダクトの「UI(ユーザインターフェース)デザイン」と「UX(ユーザーエクスペリエンス)デザイン」を設計しています。
日々、ユーザーさんがプロダクトに対してどう感じているかをヒアリングし、事業担当者やエンジニアたちと連携して「UI/UXデザイン」を改善しています。
諸説ありますが、「UIデザイン」はスマホやPC上に表示されている、文字のフォントやボタンのサイズなどのデザインを指します。ユーザーさんにより見やすい、使いやすいと感じてもらうための設計です。
一方、「UXデザイン」はアプリやプロダクトを通じて、ユーザーさんが体験するストーリー全体を設計するものです。僕が携わるプロダクトであれば、新規事業開発における調査や事業立案などの「ストーリー」を組み立てて、「体験(行動)」に変化をもたらすことを目指します。
ただ、「UIデザイン」として行われるボタンやスクロールの改善は、ユーザー体験にひもづくため「UXデザイン」とも関わっており、この2つが完全に分かれているとは言い難いですね。
━━杉友さんは、「UI/UXデザイン」をどちらもされているんですね。
杉友:そうですね。いま所属している会社のUI/UXデザインチームは小さい組織なので。大規模なアプリケーションを開発する企業であれば、UIデザイン担当とUXデザイン担当のように分業するケースもあります。
また自ら、UI/UXデザインどちらもやる方もいます。より上流のプロダクト設計から携わるということで、最近は「プロダクトデザイナー」と名乗る方も増えてきました。
UIデザインを改善すればUXデザインにも関係し、その逆もまたしかりなので、業務範囲や呼び名はデザイナーさん一人一人のスタンスによって決まるケースも多いと思います。
──東大の文学部出身だとお聞きしましたが、なぜデザインの道に進まれたのですか。
杉友:実は高校時代まで、Adobeの制作ツールに触れたことすらありませんでした。大学に進学し、デザインサークルに参加して初めてデザインを作りました。
サークルで出会った友人が、ある日「アプリ作っているんだけど一緒に作らない?」と誘ってきたんです。その友人は、既に学生時代からアプリを開発していて。
最初は友人が作ったものをレビューしてほしいというだけの依頼でした。けれども、だんだんとオフィスに遊びに遊びに行く回数が増えて、気づけば在学中にそのスタートアップでUI/UXデザイナーとして働いていました。
実際にプロダクトを開発することはとても面白くて、そのまま「UI/UXデザイナー」を目指して就職活動をしようと決めました。
──専門的にデザインの勉強をしなくても、UI/UXデザイナーになる方は多いんでしょうか。
杉友:もちろん、美大出身で見た目が美しいデザインをされている方もいますよ。ただ、美大出身ではなくてもやり方次第では十分できる仕事だと思うし、実際そういう方も周りにたくさんいます。
UI/UXデザインが認識されたのは約20年前ごろでしょうか。その後、スマホアプリの登場によって、この10年で認知を得た領域です。日本でUI/UXデザインを本格的に学ぶ環境自体が少ないんです。
美的センスも大事ですが、それ以上に個人の体験や感情を、いかに変容させられるかが求められます。それってコントロールしづらいじゃないですか。
相手の感情を、分からないなりに想像して、自分なりの正解を導き出していく。それがうまくハマれば、ユーザーさんの業務の進め方や1日の過ごし方を、無意識のうちに変容させることもできます。これこそUI/UXデザインの醍醐味ですね。
そのためにも、日頃からやっているユーザーさんへのヒアリングが重要なプロセスになります。ユーザーさんが日常業務において達成したいことと、会社が掲げるKPI(重要指標)もきちんとつかんで、プロダクトに落とし込んでいける人こそ、「良いUI/UXデザイナー」なんだと思います。
──大学時代は文学研究をされていたのですね。
杉友:現代文芸論という研究室に所属していました。扱う文学は、移民や難民が書いたものや、複数の言語に関係するものが中心でした。
例えば、チェコでずっと作品を書いていた人が、冷戦から逃れるためにフランスに移住し、新たにフランス語で書籍を書くというパターンがあるとします。ではこの文学は、チェコ文学なのか、はたまた、フランス文学なのでしょうか。
チェコ文学やフランス文学など、国ごとに一定のパターンや文化的な背景があるのですが、研究室ではそれらの枠組みで捉えるには非常に難しい文学を、丁寧に読み解くことが求められました。僕自身はアメリカの現代小説に関心があり、「9.11米国同時多発テロ」に関わる作品を中心に研究しました。
意外だと思われるんですが、文学研究とUI/UXデザインに求めれる思考プロセスが似ていると感じています。
──どういうことでしょう?
杉友:両者とも、他者の目線に立って捉え直す点が共通していますね。
文学研究では、書き手が「9.11米国同時多発テロ」などの現象に対して、どのように感じているのか、捉えているのか、その後どのような行動を取ったのか。僕自身、全く境遇は異なりますが、書き手の思考を想像しながら、解釈を導き出します。
UI/UXデザインにおいても、まさにユーザーさんはプロダクトをどのように見ているのか、何に悩んでいるのかを引き出し、新しいストーリーを組み立てる。感覚的ではありますが、こういった点が両者は類似していると思う理由です。
──UI/UXデザイナーという仕事の難しさは、どこにありますか。
杉友:すべてのユーザーさんに良いUI/UXデザインを提供することでしょうか。
BtoBプロダクトの顧客は、2,000アカウントを持っているような企業から、10アカウント程度の小規模導入の企業までさまざまです。会社としては、売り上げを担保するために、どうしても大口契約をしていただいている企業の声を優先してくみ取る必要があります。
ただ、その声を単純にくみ取るだけでは、小規模導入していただいている企業にとってはマイナスの影響を与えてしまうケースもあります。そこをマイナスにさせない、さらにはきちんとプラスにして還元できるように、UI/UXデザインをコントロールしていくことは難しいですね。
──この先、UI/UXデザイナーとしてどのように成長したいですか。
杉友:実のところ、この先ずっとUI/UXデザイナーを続けるかというと、そうでもない気がしています。大学時代の2年間、そして社会人として3年ほど働き、この仕事を嫌いになったわけではないですが。
UI/UXデザイナーをいつまで続けるか考えた時、言い方は変ですが「勝ち切った」と思える瞬間なのかなと。しっかりプロダクトの成長を見極め、ビジネスの成長に貢献できたと言い切れるまで頑張りたいです。
いまはそういう状態ではないですが、「この仕事はやり切ったな」と勝ち逃げできればなと思います。
──では、その後は文学研究の世界に戻りたい?
杉友:はい、文学研究はもう一度やってみたいですね。当時、自分の頭が100%に近く、一番回転していたあの感覚が忘れられなくて。それを、もう一度体感できたら嬉しいですね(笑)。
次回は、杉友さんのご紹介で、開発エンジニアに向けたセキュリティ事業を展開する株式会社Flatt Securityで、CCOとして働く豊田恵二郎さんへのインタビューを公開予定です。
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(文:中井舞乃、池田怜央、映像編集:長田千弘、デザイン:高木菜々子、編集:筒井智子、野上英文)