社会の第一線で活躍する人たちが、もしもう一度、キャリアのスタートラインに立ったなら? 就活生や働き出して間もない人たちへのメッセージを紹介します。第6回は、定額で世界中に滞在可能なサービスHafHを提供する株式会社KabuK Style CEOの砂田憲治さんです。
社会の第一線で活躍する人たちが、もしもう一度、キャリアのスタートラインに立ったなら? 就活生や働き出して間もない人たちへのメッセージを紹介します。第6回は、定額で世界中に滞在可能なサービスHafHを提供する株式会社KabuK Style CEOの砂田憲治さんです。
砂田 憲治(すなだ・けんじ)
月額定額で世界中に滞在可能なサービスHafH(ハフ)を提供する株式会社KabuK Style(カブクスタイル)のCEO。1984年、福岡県生まれ。長崎海星高等学校卒業。2006年筑波大学卒業後、日興コーディアル証券(現SMBC日興証券)入社。2011年よりドイツ証券にて、上場企業の資金調達サポート全般を行う。株式資本市場部シンジケート責任者を務め、日本初案件を多く手がけた。
4月から大学4年生を迎える、就活について悶々と思い悩まれているであろう皆様へ向けてのメッセージ企画。前回は NewsPicks編集長の佐藤留美さんが「キャリア記事を25年書いてきた私が、今就活するとしたら」を書いてくださいました。そのバトンを受けまして、今日はワールドワイドな視点から、日本のマクロ経済を投資銀行家という立場で見てきた私が、これからのキャリア選択のマインドセットについてご提案したいと思います。
2006年に大学を卒業して、はや17年。日系の証券会社に入社し、リーマンショックで大変な時期を迎えたことで業界構造が変わり、2011年に外資系の投資銀行に転職して7年。12年間ドップリと資本市場、特に株式市場に向き合ってきました。執行したディールは数百件にも及びます。
金融機関もシステム化が進み、レギュレーションはどんどんきつくなり、新しい発見も細部を穿つようなものになって面白くもなくなりました。また、金融機関はお金を融通し、経済にお金という血流を生み出すことが使命だと思っておりましたが、世界の金融機関はそういったことがしにくくなっていっています。
新しい資本主義、資本市場のあり方を自分の手で生み出すというチャレンジをしたいと思い、2018年に起業を決意しました。あれから5年。数十億円の資金をお預かりし、数値上の時価総額は数百億円に達し、新しい価値をつくりあげる仲間たちも数百人となりました。それなりのフェーズに至ったことで、振り返る余裕も出てきたという今日この頃です。
今日は、経済の中枢で厳しい時代も見てきた一人として、スタートアップ業界をリードする立場になりつつある立場として、自分への戒めも含めて、書き残しておきたいと思います。
お伝えしたいメッセージは大きく3つです。
1つ目は大前提。あなたは何にでもなれます。スーパースターにだってなれますし、大金持ちにだってなれます。しかし、なれなかったとしても、気にしないことです。誰の責任でもありません。そしてなれなくてもなんの問題もないのです。それが普通。
1年365日、毎朝、500回バットを振れますか?一本一本に集中をしての500回です。普通の人はそんなことはしません。しかし何かを成し遂げる人は、わずか30分の毎日の積み重ねを大事にしています。そして、仮にできなかったとしても、自分に言い訳するのはやめましょう。言い訳をしても誰も助けてくれません。
普通と言われる人生のなにがいけないのでしょう。普通が一番。だから普通です。できないほうが普通だということです。多くの人にとって、普通でないことを求めるのは不幸になるのだろうと私は思います。自分の選択ですから、誰のせいでもありません。自信を持って普通を謳歌しましょう!
自分の好きなことに打ち込み、他人と比較しない。相当なことがなければ、普通の範疇を出ることはありませんから、心配する必要はありません。ここで言う普通とは正規分布の標準偏差3σ(シグマ)以内、99.7%の範囲です。1000人に3人以外の997人を普通としましょう。大学受験の偏差値で言うと80以上です(もしくは20以下)。そんな輩は、そうそういません。
2つ目。私は起業家として、起業することをお勧めしません。ただ、否定もしません。自分が気持ちの良いように選択するのが一番です。一つお伝えしなくてはならないのは、ほぼ全員失敗するという事実だけ。
普通でない選択をすることは、多くの場合において不幸を生みます。こと同調圧力が強く、阿吽の呼吸で仕事が進み、誰に強制されるわけでもないのに “空気” という、世界の誰も理解できない雰囲気にまるで強制されている日本で過ごしていくためには、はずれたことをしないことが生きるための暗黙のルールです。
これに反抗することは自由ですが、それにはかなり強い意志が必要です。私はこれをお勧めはしません。私が皆さんのこれからに責任を持てないからです。誰もが自分のポジションをより良くするためのトークをしている、という当たり前の事実を脳内に刻んでおきましょう。あなたのために、何を投げ出してでも助けてくれる他人はいないと割り切りましょう。
会社を設立し代表取締役に就任することは、ほんの少しのお金さえあれば、小学生でもできます。しかし、これは起業ではありません。事業を起こすとは、そこから始まる漆黒の闇を乗り越えていく覚悟とリスクをとる道のりのことを言います。まして、自分のお金だけでなく、他人様のお金も使って短期間での成長を達成しようとするスタートアップを始めようものなら、頭がおかしくなる日々を過ごすことになります。
約束したお金は必ず返さなくてはいけません。そのためにユーザーをどう特定し、どう獲得していくかに24時間365日悩むことになります。アドバイスをくれる人はいくらでもいますが、判断するのは自分であり、他人は誰も助けてくれません。
うまくいっている時は多くの人たちが寄ってきますが、ちょっと調子が悪くなるとすぐに手のひらを返されます。「同情するなら金をくれ!」と心の中で叫び続ける毎日を過ごすことになります。本当の意味で、本当にビックリするくらいあなたの苦悩を救ってくれる人は誰もいません。すべてがあなたの責任だからです。
スタートアップの成功確率は1000に3つと言われる世界です。これが標準偏差3つ分、3シグマを超える世界です。大学受験の時に、偏差値80を超えることを想像できましたか?スタートアップで成功するとはそういうことを言います。
また、こういったほぼ全員失敗するというスタートアップを最初の就職先に選ぶことは、より強くお勧めしません。理由は、10年後、30歳になった頃に、大きな差がうまれるケースがほとんどだからです。それは報酬面もですし、スキルセットもです。
NewsPicksの記事を読まれるような、意識が非常に高い皆様が就職されるであろう企業は非常に高い報酬を支払ってくれるでしょう。しかし、その報酬レベルに達するスタートアップはごくごく限られた数だけです。そのため、ほぼ絶対と言い切って良いレベルで、30歳頃の報酬は大企業に行った同級生と雲泥の差が出ます。20代の間に気がつけばいいですが、スタートアップ村に30歳までつかると後戻りはできなくなり、40歳頃にはどうしようもない差が出るでしょう。
より致命的なのはスキルセットについてです。数十人規模のスタートアップでは、本当に毎日がバタバタな場合が多く、なんでもこなさなくてはいけません。ジェネラリストとして0→1の楽しみはあるでしょう。しかし、稼ぐための1から先に必要とされるフェーズのスキルが蓄積されません。特定分野の専門家としては何もできなくなってしまうのです。プロジェクトマネージがそれっぽく上手になるかもしれませんが、大きな仕事の経験がなく、仮に入ったスタートアップがうまくいったとしても、スケールさせていくフェーズではお払い箱となります。
2022年に東証グロース市場へ上場した67社の売り上げ規模の分布です。10億円未満の売り上げの企業が15社、20億円未満で全体の約6割となる39社になります。
上場したら成功事例のように思われるかもしれませんが、上場しているレベルでこの程度の売り上げしかありません。売り上げとは社会にインパクトをどれだけ与えているか、つまりその価値を売れていることの証左です。日本のGDPが500兆円以上あることと比べて明らかに小さい。この程度のサービスであれば、あってもなくても世界にはなんら影響を与えていないに等しいでしょう。
スタートアップというと輝かしい場所のように見えている方も多いのではないかと思いますが、しょせんその程度だということをぜひ理解しておいていただきたいのです。
大企業に就職した同級生は、30歳を超える頃には、この程度の数十億円の取引を1人で責任を持っています。数十億円の投資予算を1人で持っている場合だってあります。それは会社の看板があるからできることで、1人の力ではありませんが、それでもどちらが世の中により大きなインパクトを与えているかは自明だと私は考えます。
3つ目は、それでも世界を変えることに人生のすべてを捧げたい。一時たりとも「空気」みたいな阿吽の呼吸を求められる大企業には行きたくないという方は、日本を出てしまいましょう。若い間はなんでも吸収できます。失うものもありません。より大きなリスクを取りましょう。
何が違うって、一言で言うなら、物価が違います、その成長力が違います。日本はもう30年給与が上がっていないなどと言われ、物価を上げるための異次元の金融緩和がここ10年ずーーーーっとなされていますが、物価が上がりません。ちぐはぐな政策。プロの人たちでさえ語る、「それ違うよね」という忖度発言。上げる気はないのだろうと私は思います。ビッグマック指数では、日本の物価が低いことがよく話題になります。
変わらないことを美徳と捉えれば、物価を上げないことが悪いことだとは言えません。
私は日本が大好きですし、世界一住み良い国だと自信を持っています。しかし、一個人の選択としては、少なくとも、稼ぎを円建てにペッグするのが良い選択とは言えません。世界と対等にコミュニケーションをするためには、海を越えた日本の外の世界がどういう軸で動いているのか、身をもって感じておく必要があります。
今はまだピンとこないかもしれませんが、これから真剣に仕事に打ち込み、20年経って経営に近い位置、経済がどう回っているのかがわかる位置にいる頃に初めて気づきます。しかし、その時には、もう時すでに遅しです。今のあなたたちのような柔軟性はなく、養わなければいけない家族でもいようものなら、新たなリスク(不確実性)を取ることは愚の骨頂としか思えません。
騙されたと思って、日本から出てしまいましょう。大変なこともたくさんありますが、普通でない選択をするのであれば、日本に居るよりは、幾分かマシな確率で面白い人生が送れると思います。
「最近の若いものは……」なんて、言いたくなる年頃に私も至ってまいりました。古今東西、誰しもがついつい自分の時代と比べたくなってしまうんですよね。自分を正当化したいバイアスも相当にあるのでしょう。
しかし、そういったことを割り引かずとも、私は次の世代、今の10代、20代を見ていて、すごいなと思います。いいなと思います。
私が大学生の頃には、こんなにハイスペックなPCを簡単には持てませんでした。簡単に動画編集したり、機械学習のような大量計算を安価でしたりすることなんて想像もできませんでした。秋葉原に行ってパーツを買ってきて、ファイル共有ソフト(今はたぶん違法です)でダウンロードする術を聞いて、なんとか自分のお小遣いで多少ハイスペックなコンピューターを作っていました。論文を書くための分析には、夜から朝までずっと計算させていたのです。わずか20年ほど前の話です。
今では、小学生が説明書もないゲームをYouTubeで調べてすぐに上手くなり、プロゲーマーかと思ってしまうような感じで、ヘッドギアをつけて、簡単なコードでアイテムを呼び出し、友人とチャットしながらゲームに没頭しています。
20年前に私が社会に出た時、エクセルを使えないおじさんたちがいました。これから10年後、コードが書けない、システムアーキテクチャーを理解できない大人たちが大量に、今の子どもたちから冷たい目で見られる日が必ず来ます。
今から社会に出られる皆さんは、会社という特異なコミュニティに依存することなく、個人で何でも扱えるような素晴らしい時代からスタートします。本当に何にでもなれるのだと思います。あとは何をするか、何をしたいか。わからないことも多くあるでしょう。悩むことも多いでしょう。でも、しつこく聞いてください。あなたのためだけに、こちらから優しく教えることはありません。しかし聞かれたら、誰でも何らかの反応はしてくれるものです。
最後に、このリレー企画の私なりの回答をしておきます。私は何度やり直しても、やっぱりこの人生を歩むような気がします。なんやかんや言うても、私はこのクソみたいな資本市場を、資本主義を愛してやまない気がするのです。
どのスタートラインに立っても、20年経って、50年経って、それでも良かったと言えるような人生を歩めばいいのだと強く信じています。
あなたが持っているボールはあなたが保持してください。あなたという人生のゲームのキャスティングボードを握っているのはあなた自身です。ゴールを決めるのもあなた自身なのです。
好きに生きましょう!あなたたち、一人一人がアクティブに動くほどに、日本が本当に “空気” を壊せる日がより近いうちに来るのだと信じています。
Be Crazy!!!
不確実な未来のリスクをとって、皆様が大いなる世界に飛び出していくことを楽しみにしています。(普通もいいけど、それを出るやつらが多くなって、正規分布しない未来を見てみたいのが本音です笑)
私が次にバトンをお渡しするのは、NewsPicksパブリッシング編集長で、話題の『弱さ考』を連載中の井上慎平さんです。引き続き、「私がもう一度、キャリアを踏み出すスタートラインに立ったなら」リレーをぜひ、お楽しみに!
私は、旅行業界、観光業界についてこのトピックスを書いております。面白いなと思ったら、ぜひ、フォローミー!
(文:砂田 憲治、編集:JobPicks編集部)
このシリーズは、「NewsPicksトピックス」とのコラボ企画です。「私がもう一度就職活動するなら - スタートアップをファーストステップに選ぶべきでないと考える理由 by 投資銀行に12年、からのスタートアップ起業家」(2023年3月6日配信)を編集しました。
砂田憲治さんはNewsPicksトピックスで「基本からわかる観光立国ビジョンへの勝手提言」を連載しています。ぜひチェックしてみてください。