親の介護が迫る営業リーダー、Uターンに職も年収減もどうする

親の介護が迫る営業リーダー、Uターンに職も年収減もどうする

銀座にある看板のない しごと相談BAR vol.09 タカ 33歳

今夜、BARを訪れたのは、都内のIT業界で働く33歳のタカさん(仮名)。

数年前に地方から上京し、飲食店向けのウェブサービスを運営する会社で、営業担当のチームリーダーとして活躍しています。

いずれは故郷にUターンで戻り、働くことを検討していますが、どのようなキャリアを歩めばいいかと悩んでいるようです。

“しごと相談BAR”、本日も開店です。

銀座にある看板のない しごと相談BAR vol.09 タカ 33歳

目次

午後8時すぎ。1人でBARを訪れたタカさん。シティーポップが流れる店内で、ハイボールグラスを傾けています。

タカ「上京して5年。このまま東京で働き続けるか、故郷に戻ってキャリアを積むべきかで悩んでいます」

「チーン」

タカさんが手元のベルを鳴らしました。

銀座にある看板のない しごと相談BAR vol.09 タカ 33歳

憧れの消防士になるも、PTSDを発症

今夜、BARでアドバイザーとして席に座るのは、採用コンサルティングや人材紹介事業をする会社「タレントフォース」を創業した細川将さん。定期的にBARのカウンターに立ち、転職やキャリアの相談に応じています。

銀座にある看板のない しごと相談BAR vol.09 タカ 33歳

細川「今の会社に転職する前までは、何をしていたの?」

タカ「今の会社は5社目になります。ファーストキャリアは地元で消防士をしていました」

学生時代に職場体験で消防の仕事に触れ、人命救助に関心を持ったタカさん。公務員試験の勉強に励んで20歳の時、憧れの消防士になりました。

しかし、4年後に退職しました。

タカ「PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症してしまいました。火災や事故現場で遺体を運んだり、自分の命も危ない時もあったりして、怖くなってしまって……。憧れだった消防士を辞める決断は本当に辛かったです」

銀座にある看板のない しごと相談BAR vol.09 タカ 33歳
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セカンドキャリアの営業職でMVP

消防士を辞めざるを得なくなったタカさん。セカンドキャリアで営業畑を歩み始めます。

細川「今は営業職だと聞いていますが、営業につながるようなキャリアはいつからですか?」

タカ「消防士を辞めた後は、大手人材紹介会社に運よく入社しました」

細川「運よくですか?」

タカ「はい。消防士を辞めてから転職活動をしていたんですが、20社以上受けて落ち続けていました。そんななか、大手人材紹介会社の1社だけから内定をもらえたんです」

「契約社員でしたが受け入れてくれました。その時は体力と勢いだけが自分の強みでした。未経験でも自分を受け入れてくれる器があることにも感銘して、入社を決めました」

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契約期間3年という期限の中、営業の好実績の社員を表彰する「ゴールデンルーキー賞」や「月間MVP賞」など数々の社内の賞を受賞したというタカさん。

タカ「営業の基礎やスキルは、このセカンドキャリアで叩き込まれました。飛び込み営業だったり、クライアントへの提案だったりを身につけました」

バーテンダーで鍛えた人間観察力

契約期限が迫る中で、次に選んだ職はバーテンダーでした。人間観察力を培った3年間だったと振り返ります。

タカ「バーで人を観察したり、顧客が何を求めていたりするのかを磨きたいと思うようになりました。酒も好きだったのでバーテンダーに関心を持ちました」

細川「そこではどんな経験をしましたか?」

タカ「お酒を作るのはもちろんですが、新規のゲストだったり、常連客だったりが今、どうして欲しいのか、どんな雰囲気でお酒を楽しみたいのかを感じ取って動かなけれななりません」

細川「僕もバーテンダーしてますが、確かにそうですね」

タカ「バーでの人間観察力が今の営業職にも生かされていると思います」

銀座にある看板のない しごと相談BAR vol.09 タカ 33歳
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元同僚の先輩に誘われ東京へ

地方でバーテンダーとして働いていたタカさんですが、5年前に東京に初めて上京します。

タカ「以前働いていた人材紹介会社の先輩が立ち上げた会社に入社しないかと打診がありました。30歳手前で東京で働けるチャンスがあるなら今だと思って、引き受けることにしたんです」

細川「そこでは何をしていたの?」

タカ「人材紹介事業を立ち上げる新規プロジェクトに参画しました。企業に新卒者を紹介する事業や新卒者向けのイベントなどを企画しましたが、1年くらいでプロジェクトが上手くいかずに、事業を撤退することになったんです」

事業撤退をきっかけに、タカさんは再び転職。現在はウェブサービスを運営する大手企業で働いています。

営業リーダーとして、5人のメンバーを率いて人材育成をしながら、新規営業やカスタマーサポートなどを取りまとめしています。

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親の介護のことを考えると…

細川「これまでのキャリアの話を聞いて、営業職という仕事を軸に色々、キャリアを積んできているんですね。地元で働くことに対する悩みがあると言ってましたが、どうして地元に戻りたいんですか?」

タカ「いくつか理由はありますが、一番は親の介護のことです。母はまだ、大丈夫なんですが、父が要介護が近い状況です。母が父の介護をするとなれば、相当な負担にもなります。近い将来に両親の介護が必要になる中で、このまま東京で働いていていいのかと思ってしまうんです」

細川「確かにそうですね。リモートワークはできないの?」

タカ「営業職は人と会う仕事です。リモートには限界があります。地元で働くとなると、今の仕事は辞めないといけないですよね」

細川「辞めることは選択肢にありますか?」

タカ「辞めてしまえば年収が下がりますし、葛藤はあります。東京の案件を受けながら。地方で働く方法も模索してます。フリーランスとしてやっていけたらいいのですが…」

細川「営業でフリーランスをやるとなれば、将来を見据えてマネジメント経験やリモートとの相性の良いIT商材が扱えると良いスキルになると思います」

タカ「そうですね」

銀座にある看板のない しごと相談BAR vol.09 タカ 33歳
相談でBARを訪れたタカさん

大企業はスキルを磨ける環境 

細川さんは大手企業だからこそ、スキルアップができると説きます。

細川「今いる大手企業の環境をせっかくなら活かして色々なスキルを身につければ独立してから役に立つ可能性はとてもあると思います」

「地元で働くために自分に必要なスキルは何のか整理して、何年までとか期限を決めて、逆算して動くことが重要になります」

「フリーランスという選択もありだし、フルリモートで働ける東京の会社もあります。いろんな選択肢があるので、早めに調べつつ、力をつけておく必要がありますね」

「今の環境を活かして次に向けて今の職場で頑張って準備してみて動いてみることをお薦めします」

「これまでいろんな仕事をしてきたタカさんだったら、特に今の恵まれた環境でスキルアップはできるはずです」

銀座にある看板のない しごと相談BAR vol.09 タカ 33歳

タカ「そうですね。確かに、大企業だからこそスキルアップができる環境にいますね。親の介護は少し先ですが、時間は有限なので、逆算して営業を軸にスキルアップしていきたいと思います」

タカさん、地元に戻って働くために今必要な行動がクリアに見えたようです。

   ◇

働く若者たちの本音が聞こえてくる「しごと相談BAR」。連載シリーズは金曜に公開予定。

(取材・文:比嘉太一、撮影:飛塚倫久、デザイン:高木菜々子、編集:野上英文)


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