サウナやアフター5で就活を 社名もスーツも脱ぐ説明会

サウナやアフター5で就活を 社名もスーツも脱ぐ説明会

    就活はいま、学生優位の売り手市場。就活生が最重視するのは給与やネームバリュー以上に「社風や社員の良さ」との調査結果がある一方で、企業側は従来通りのアプローチでは「学生たちの本音を聞くのが難しい」とも感じているといいます。

    お互いに腹を割って話し合い、等身大の姿を見せ合う場を作れないだろうか......。

    そんな課題意識から、あえて企業名を伏せた説明会を開いたり、就業時間後の「ナイトシューカツ」の場を設けたり、サウナで学生と社員を引き合わせたり。個性的な説明会を開く3つの企業にインタビューしました。

    目次

    企業名をあえて隠した説明会

    「就活生は企業名を知っているかどうかで、企業の話を聞きに行くか判断されてしまいます。こうなると大手企業に採用競争では勝てません」

    求人ウェブサイトを運営する「ウォンテッドリー」は8月、東京都港区で企業名を隠した説明会を開きました。

    長期インターンを募集する企業と学生のマッチングを目指したイベント。企業の出展ブースでは、会社名や企業のロゴが一切ありません。その代わりに企業のミッションや成し遂げたいことのキャッチコピーを大きく記した掲示があり、目に留まります。

    説明会だって多様化の時代
    会場の様子(写真提供:ウォンテッドリー株式会社)

    大手企業の名前ばかりに目が行きがちな就活生に、企業ミッションや事業内容から選んでもらいたい、という狙いがあります。

    同社の調査では、この春に卒業した学生の51%が「やりたいことや歩みたいキャリアが分からない」と回答したといいます。働くことの目標を持たなかったり、企業への共感が薄いまま働き出したりしている若者が少なくないのです。

    そこで、社名よりも企業のミッション。就活生がこれらを知ることで、やりたいことを見つけたり、企業の社風をより理解できたりすると考え、企業名をあえて隠した説明会を開きました。

    イベントには同社の求人サイトを使う企業8社と学生70人が参加。学生からは次のような声が上がりました。

    「企業名が掲示されていると、知ってる会社にばかり行ってしまうが、今回はこれまで知らなかった会社も多く見ることができた。話を実際に聞いてみたら面白くて、先入観なく企業を見ることができた」

    「IT関係で探していたが、エネルギー業界の会社と出会って、この業界でもITが活用されていることを知り、興味をもった。どのような仕事が世の中にあるのかを知って、興味の幅を広げられた」

    説明会だって多様化の時代
    説明会の様子(写真提供:ウォンテッドリー株式会社)

    また、説明会に出展した企業からも「普段の説明会よりも、会社のミッションや事業の将来について聞かれることが多かった。より深く知ってもらえた」と好意的な声があがりました。

    こうしたスタイルの説明会こそ、「今一番必要とされている」とウォンテッドリーの広報担当、奈良英史さんは強調します。

    ウォンテッドリー 広報 奈良英史さん

    10年前や20年前と比べて今は、なんのために働くか、どこに働く意義を感じるのか、ということを大切にしている学生が増えています。

    彼らはそれを見つけるために、自己分析や自己理解を深めようとしていますが、たくさんの情報があふれるネットからは見つけることはできません。

    就職先を選ぶ1番のポイントは「社風や社員の良さ」

    就活サイトを運営する「マイナビ」が2024年度卒の大学生を対象にした調査では、就職先として企業を選ぶ際のポイントに「社風や働く社員が良い・良さそう」が28.7%で最も多く、次に「安定性がある」が19.0%が多い結果になりました。

    説明会だって多様化の時代
    出典:マイナビ2024年卒 大学生活動実態調査

    社風や働く社員が「良い・良さそう」を重視することに、24年卒の学生は次のような理由を挙げます。

    理系女子:「長く働きたいと思っているので、対面でなんとなく感じた社風や実際に働いている人の雰囲気を1番大切にしています。自分に合いそうな企業ということを気にしています」

    理系男子:「仕事は1人でできるものではなく、多くの人が協力して行うものだと考えているため、会社の雰囲気や環境、社員の方を大事なポイントにしました」

    アフターファイブに本音を語れるシューカツ

    社風や社員の良さが注目されるなか、日中ではなく「あえて夜」に説明会を開いたケースもあります。

    説明会だって多様化の時代

    大阪市内で9月7日に開催された就活イベント「ナイトシューカツ」は、「アフターファイブ」の午後5時から7時の時間帯に開かれました。

    主催した友安製作所の広報担当、松本明莉さんは「17時以降はオフの時間帯なので、参加する社員も学生も互いに本音が話せる場だと思いました」と語ります。

    松本さんは、採用面接ではプレッシャーを過度に感じている学生が多いとみています。重圧を取り除き、リラックスして社風を理解してもらいたい。そこで、思いついたのが「ナイトシューカツ」でした。

    自己理解を深めるゲームで学生と社員が交流しながら、自己分析を進められる内容だといいます。

    「こんな人になりたいと思った瞬間」「あなたの元気の源は?」などと記されたくじを引き、そのテーマに沿って社員と語り合います。他者をより深く知ることもできる仕掛けです。

    昨年は友安製作所の1社だけでしたが、今年はオカムラ、木村石鹸工業、サンワカンパニーが加わり、4社の合同企業説明会となりました。

    説明会だって多様化の時代
    kokouu / iStock

    友安製作所は長らく、技術力に重きを置いた中途採用だけを続けていました。

    それが、新卒採用を始めて2年目。そこで感じたのは知名度の低さでした。学生から注目されるためにも差別化で「ナイトシューカツ」に踏み切ったのです。

    友安製作所 広報 松本明莉さん

    中小企業が学生に認知してもらうのがなかなか難しい中、『ナイトシューカツ』は学生に目にとまる説明会に。一般的な説明会では、自社の表面的な話だけを伝えて、『本当のことを言っているのか、信じられない』という学生の声も聞きます。

    学生も自分の本音を企業に伝えづらい。『ナイトシューカツ』で社員との交流を通じて、互いに本音で話せる説明会にしたいです。

    サウナは「嘘をついてはいけない場所」

    一方、若者に人気のサウナを取り入れた会社説明会もあります。主催は「株式会社温泉道場」。

    2月に開催された「アウトドアで会社説明会2023」には多くの学生が参加しました。

    同社の小林佳奈さんは「コロナ禍で多くの学生が外部の人たちと関わる機会や、大学生活で当たり前のように経験できた機会を失いました。そんな中、就活が始まった途端に自己分析やガクチカと言われてもなかなか難しいですよね」

    「そこで、今のありのままの状態で、そのまま参加できる新しい説明会にしようと工夫しました」

    説明会だって多様化の時代

    説明会のテーマは、「脱ぎすてろ、就活スーツ。身にまとえ、自分らしさ」

    学生はスーツ着用を禁じられ、私服で参加するのが条件。説明会の登壇者は、サウナハットをかぶって会社の概要を説明しました。

    説明会だって多様化の時代
    室内で行われた説明会の様子(写真提供:株式会社温泉道場)

    説明会の後、様々なテーマ性を持たせたサウナで交流できる企画も実施しました。

    例えば、社長に20代の働き方やお悩み相談ができるサウナ。また、新卒メンバーにフラットに質問ができるサウナ。さらには、アウトドアをじっくり楽しむサウナなど。それぞれのサウナ室で社員と交流を深めました。

    説明会だって多様化の時代

    参加学生から「会社を知る良いきっかけになった」といった声が上がり、評判の良さから次回開催も決まりました。

    小林さんは、サウナを通じて学生のありのままを見られたり、本音を聞けたりできることが良かったと振り返ります。

    温泉道場 広報 小林佳奈さん

    通常の説明会も毎月、開催していますが、こうして一緒に体験をするイベントの方が、就活生もリラックスして話をしてくれているように思います。

    日本には「裸の付き合い」という言葉があります。さらに、サウナ発祥のフィンランドには「サウナの中では嘘をついてはいけない」という、ことわざもあります。そんな副作用も、就活にかかるストレスを和らげ、企業との良い出会いにつながるかもしれません。

    (取材・文:鍬崎拓海、デザイン:高木菜々子、編集:比嘉太一、野上英文)