​​iPhone13でアバター就活生「ゲーム感覚 vs 画面酔い」

​​iPhone13でアバター就活生「ゲーム感覚 vs 画面酔い」

    就活はいま、対面とオンラインの使い分けが主流です。そして、両方の特徴をあわせ持った選択肢として、インターネット上の仮想空間「メタバース」就活も注目されています。

    就職サイト運営の「マイナビ」が実施した調査では、就活生の8割近くがメタバース就活に大なり小なり関心を示しています。デジタルネイティブ世代のJobPicks編集部インターン生が、メタバース就活をやってみました。バーチャル空間で企業説明会を歩いたアバターが感じた世界観は?


    目次

    高柳さんプロフ

    対面、オンラインのいいとこ取り?

    大学3年で就活生である私は最近、大学の授業、web説明会、リモートワークのインターン活動など、対面とオンラインを併用する生活が続いています。一昔前まで、対面だけで生活していたころの自分の姿を思い出せなくなるほどです。

    オンラインの活用は他の予定とも調節しやすくて助かる一方、受け身になることもあり、集中力がイマイチ続かないことがネックです。就活のイベントでも長時間集中して聞かなければいけないのに、周りに人目がないとつい、ぼーっとしてしまうことも...。

    対面とオンラインのいいとこ取りの何か新しい形式で就活をできないかと思っていた時、ふと気になる単語を目にしました。

    「メタバース就活」。これってなんだろう?

    metamorworks/iStock
    metamorworks/iStock

    メタバースとは、インターネット上に構築される3次元の仮想空間のことです。それに就活を掛け合わせた「メタバース就活」は、企業がメタバースを用いて、採用活動を行うことだといいます。

    最近はこのメタバース就職をする企業が増えており、「新しい採用活動の一環」として大きな影響を与えるのではないか、という見方もあるようです。

    ただ、こうした説明をながめているだけでは、イメージをいまいちつかめません。

    お試しでメタバース就活やってみた

    わからないなら、とりあえず試してみよう。

    メタバース空間で開かれた企業説明会に参加することにしました。準備はとても簡単。メタバースという言葉から連想されるゴーグル型のVR機器などは必要なく、スマホやタブレットで参加可能でした。

    専用アプリにアクセスして、大学名やニックネームなどを入力すれば、自分に成り代わったアバターが作れます。これで設定完了。マイアバターが、企業や業界ごとに分類されたブースを歩きながら、説明の展示を見たり、動画で説明を聞いたりします。

    アプリ内では企業説明の展示がいつもあり、場所や時間を選ばずに参加できる手軽さがあります。私も実際、大学での講義の空き時間に参加しました。

    また、面白いと感じたのはマイク機能です。指定の時間帯に限られますが、人事担当者とメタバース空間で会話も可。対面のイベントに、より近い感覚を味わうことができます。

    TarikVision/iStock
    TarikVision/iStock

    見よう見まねで、初めて体験したメタバース就活。1番の感想は「就職活動をしているという実感がわきづらかった」です。スマホアプリを使ったゲームをやっているような感覚にとても近いと感じました。

    企業説明会では、対面・オンラインを問わず、「就職活動をしている」という感覚を無意識に抱いて、よく気疲れします。ただ、メタバース空間での説明会では、ゲームのように、楽しみながら就活できそうです。

    これまでにない、気分転換やリラックスした気分。さらにバーチャルなので空間を動きやすく、様々な企業の展示を手軽にみて回れました。今まで知らなかった企業とも出会いやすかったです。

    対面の合同説明会で得られる「偶然性(セレンディピティ)」と、オンラインツールとしての気軽さを併せ持つ、唯一のユニークなサービスと言えそうです。

    そこで、代表例としてZoomから、オンラインツールとメタバースを比較してみます。

    私の経験からみると、今の学生にとって一番慣れ親しんだWeb会議ツールの一つです。

    ただ、企業説明会などでは、個人利用とは異なるウェビナー形式が用いられる場合が多いです。この場合、参加者側はカメラやマイクの切り替えはできません。

    企業側は学生の反応を得づらいほか、学生側も質問しにくいことがあります。リアクションボタンやチャットを使って反応を探ることが多いですが、他の学生の顔を見られないウェビナーには、やりづらさを感じることもあります。

    kokouu/istock
    kokouu/istock

    耐えきれなかった私のスマホ

    こうした「メタバース就活ならでは」の新感覚を味わえた一方、困ったこともありました。

    私は2年前に発売されたスマホ(iPhone13)を使ってイベントに参加しましたが、企業ブースにアクセスしようとすると、アプリが負荷に耐えきれず、何度も切断されました。

    人事担当者と企業ブースでコミュニケーションができることに期待していましたが、こうした機器・通信トラブルで、結局は交流することができませんでした。

    メタバース就活の説明会ブースは、多数の企業がいろいろなコンテンツを同時多発的に提供しており、時にオンラインでも接続しています。利用する端末や通信環境も、高いスペックがいるのかもしれません。

    このほかにも、対面やPCやスマホで平面的に受けるWeb説明会にはない違和感も覚えました。

    私は日頃、スマホゲームをやらないためか、メタバース空間の立体的な画面に少し酔ってしまったのです。Web会議システムを使うのとは違って、メタバースはまだ十分に浸透していない新しい試みなので、利用者側の慣れも必要だと思いました。

    miya227/iStock
    miya227/iStock

    デメリットを少し挙げましたが、個人的には「休み時間にゲームをするような感覚で就活をできる」ことが好印象でした。楽しさという要素は、これまでの他の就活にはなく、メタバース就活ならではの特徴と言えるかもしれません。

    こうした形式のイベントが浸透し、機材やインフラも整えば、積極的に参加してみたいと思いました。

    メタバース就活って興味ある?

    ほかの就活中の学生たちは、「メタバース就活」をどう思っているのでしょうか?

    「マイナビ 2024年度卒大学生 インターンシップ・就職活動準備実態調査(1月)」によると、「興味があり、参加してみたい」と回答した学生はおよそ3割でした。

    全体の半数が「興味はあるが、参加してみたいかはわからない」と回答し、残る2割の学生は「興味がなく、参加してみたいとも思えない」と否定的な結果になりました。

    グラフ
    メタバースでの就活準備イベント・就活イベントについてどう感じるか。出所:マイナビ2024年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(1月)

    理由についても見ていきましょう。「興味があり参加してみたい」と前向きな学生たちです。

    「オンラインでありながらも、対面のような臨場感を感じられ、また質問など社員の方との交流がとりやすいと思うから」

    「リアル(対面)とウェブの中間に当たるものだと自分は考えており、両方のいいとこ取りができると思うから」

    「アバターだったら気兼ねなく質問できそうだから」

    一方、「興味はあるが参加してみたいかはわからない」を選択した中間の学生たち。

    「いいとこ取りが出来そうで良いと思う半面、PCやスマホ、周辺機器がないと参加できなさそうだから心配」

    「フラットな評価がされそうな上、自己開示が少なくて済むという気軽さを感じるため興味はある。しかし、それでは表情から伝わるものがなく、自分自身の気持ちが伝わるかが不安である」

    周辺機器への不安は、私の体験からの感想とも重なります。

    「興味がなく参加したいとも思わない」と否定的な学生たちは、どうでしょう。

    「従来行われているオンラインミーティングで十分だから」

    「メタバース内を歩くときに、画面酔いをしやすい、目が疲れやすく気持ち悪くなりやすいため」

    「顔が見えないのが怖いから」

    画面酔いを懸念するのは、私も共感です。

    staticnak1983
    staticnak1983

    社風や雰囲気は分かりづらい

    メリット・デメリットが挙げられるメタバース就活ですが、アバター独特の会話が今後、どう影響するか注目しています。

    会社選びの説明会では、企業の担当者の人柄を重視している就活生は多く、私もその一人です。ただ、メタバース空間で、お互いに顔が見えないアバター同士のコミュニケーションでは、「どのような雰囲気の人が働く会社なのか」「社風は自分とマッチしているのか」といったことを推し量るのが難しかったです。

    naratrip boonroung/istock
    naratrip boonroung/istock

    似て非なるweb会議との違い

    ところで、従来のオンライン就活との違いはなんでしょうか? 私はアバターを使うこと以外、はっきりした答えをもっていません。

    メタバース就活では、参加者は生の人間のままではなく、アバターを代わりに用いて交流します。アバターは拍手や手を振る動作など人間に近い動作・反応を示すことができます。

    web会議とは違って複数人が同時に話すこともできるため、参加者は話したい相手を指名して会話したり、同一空間で複数の会話を進めたりすることができるのが特徴です。

    見たい企業ブースを選択したり、音声でやりとりしたりのほかにも、テキストや音声のチャット機能を使った交流もできます。

    ただネックは、リアルタイムで参加する必要性があります。「後から説明やイベントを見返したい」と思っても、メタバースではできません。

    「対面とオンラインのいいとこ取り」という設計のメタバースですが、やはり一定の制限はあるのです。

    Pheelings Media/iStock
    Pheelings Media/iStock

    今後、増えていくかもしれない「メタバース就活」。就活生だけでなく企業も、実態のニーズや使い勝手に合わせた使い分けが求められていくかもしれません。

    (文:髙栁綾、デザイン:高木菜々子、編集:野上英文)