これまでの受験も頑張ってきたし、せっかく手に入れた学歴。その次は決まっていい会社に入らなければならない。そう思い込みすぎて、失敗を恐れてしまっている人も多いと思います。でも、本当にそれは「失敗」と言えるのでしょうか?
もしかしたら、今自分にとって「ベスト」と思っている選択肢だけが、長い目で見たときの最適な答えとは限らないかもしれません。
この連載では、学生向けのキャリア支援講師をする山本梨央さんが、就活生に宛ててアドバイスをつづります。第11回は「本当に就活のレールはあるのか」。決められたレールの上を走らなければ、と思っている人にこそ、自分らしいキャリアの選び方を考えられるヒント、大本命の会社を受ける前に肩の力を抜くヒントが得られそうです。
就活を始めたタイミングで、敷かれたレールの上を走り始めてしまっている感覚に陥ったことがある方もいるのでは? 高校を出て、大学を出て、いい会社に新卒で入らなければならない。見渡せば同級生も同じような選択をしているから、それ以外のレールは用意されていないように感じてしまっても仕方ないと思います。だからこそ、レールから脱線するような行動には恐怖を抱いてしまう。
「第一志望の会社に内定をもらわなきゃ」
「大企業に受からなければだめだ」
「就活に失敗したら、人生終わりかも」
今、自分の見えている範囲の就活だけを基準に、なぜか人生全部がだめになると考えてしまう。それくらい思いつめてしまう人もいるでしょう。これまで就活支援をしてきて、そうした不安を抱えている学生さんもたくさん見てきました。
でも、本当にそのレールって正しいのでしょうか? そもそも、レールはあるのでしょうか? 私が中学生の頃、卒業式で高村光太郎の詩を朗読しました。先生に選んでもらった『道程』という詩は、当時あまり意味がわからないまま読んでいた気がします。その一節にこんな言葉がありました。
「僕の前に道はない 僕の後ろに道はできる」
(高村光太郎『道程』より引用)
今になって思うのは、就活にもきっとこの言葉が生かせるということ。決められたレールではなく、何もないところに自分で道を作っていくイメージを持つだけで、少し気持ちが楽になる部分もあると思うのです。
第一志望に落ちたからこそ、自分の最適な選択肢に出会えた
私自身のことを振り返ってみれば、第一志望に落ち続けた人生でした。中学受験で私立に進みたかったけれど、失敗して公立中学に。高校受験でも第一志望は大学の附属高校だったけれど、結局失敗して公立高校に。大学受験も、行きたかった大学にこそ入れたものの、第一志望だった学部には落ちてしまいました。就職活動にいたっては、何が第一志望かもわからないまま、やみくもに受けたほど。50社受けてようやく受かった1社に入社しました。
でも、私は今の人生を全く悔いていません。中学受験に失敗したからこそ、その悔しさをばねに高校受験を頑張ろうと思いました。おかげで、当時塾で出会った友人たちとは今でも交流をしています。高校も、周りは帰国子女が多く、いろんな考え方をオープンに語り合える友人ばかりだったので、とても刺激を受けました。大学の学部だって、当時のつながりが今の仕事に生きていることもたくさんあります。
毎回「第一志望」ではなかったものの、振り返ってみれば「私にとって最適な」道を進んできたのだと気づいたのは30歳近くなってから。当時は毎回悔しく「失敗だ!」と嘆いていましたが、見方を変えれば自分との相性でのミスマッチを防ぐことができていたのだとも言えます。
とはいえ、就活が始まったらどうしても焦ってしまうものですよね。たとえば、そのレールにしがみつかない方法を想像してみてはいかがでしょう?
就活中は、きっと志望企業で活躍する自分を想像する機会が多いと思います。では逆に、そこから一番遠い、大企業や新卒採用にとらわれない生活を楽しく送っている自分の姿を想像してみましょう。
今やっているバイトをそのまま続けているかもしれない。
本当は大好きな地元に戻って働いているかもしれない。
家業を継いでいるかもしれない。
もしかすると、それは「大学を出たらいい会社に入らなければならない」という固定観念でできたレールから見れば脱線、いわば「負け」と言われることなのかもしれません。でもその働き方が自分にとって最適かどうかを決めるのは、自分自身です。
いざとなったら、こういう生き方をする道もある。そう考えられると、今受けようと思っている第一志望に対しても、少し肩の力を抜いて、全力で向き合えるのではないでしょうか?
少し考え方を変えることで、自分に後ろ盾を作ってあげる。そうすることでこそ、本気で今の就職活動に臨む活力が湧いてくることもあると思います。
まっすぐに延びた脱線できないレールを想像するよりも、まっさらな平野に自分で道を作っていくイメージをしてみる。その結果、意外なキャリアが「目指していた生き方への近道」になることもあれば、思いがけない形で就活中に思い描いていた将来像にたどりつくこともあるはずです。
(文: 山本梨央、デザイン:高木菜々子、編集:筒井智子)