今夜BARを訪れたのは、転職活動中のメイさん(仮名)。28歳で人材開発に関われる業界を志望していますが、何やら将来の方向性で悩んでいるようです。
また、自身が職を転々としてきた「ジョブホッパー」という経歴にもコンプレックスを感じているようです。
“新卒相談BAR”の開店です。
今夜BARを訪れたのは、転職活動中のメイさん(仮名)。28歳で人材開発に関われる業界を志望していますが、何やら将来の方向性で悩んでいるようです。
また、自身が職を転々としてきた「ジョブホッパー」という経歴にもコンプレックスを感じているようです。
“新卒相談BAR”の開店です。
午後8時すぎ。転職の相談ができると聞いて、1人でBARを訪ねたメイさんの姿がありました。
メイ:「人材開発に関わる仕事をしたいと思っています。この2カ月、面接をずっと受けているんですが、書類審査や一次面接で落ちる状況が続いています。果たして自分が向かっている方向性が当たっているのかどうかという悩みがあって……」
「世間でよく言われている『ジョブホッパー』みたいな経歴にも不安を感じています」
「相談、お願いします。」
メイさんが大さんを呼びました。
メイさんはこれまで、人材派遣業業界でコーディネータや海外メーカーでの法人営業など、計3社で経験を積んできました。
BARでアドバイザーとして席に座るのは、年間300件以上の就職や転職の相談に乗っている店主の二宮大さんです。
大:「これまで3社の会社で、それぞれ何年ずつ働いていたの? 」
メイ:「1社目は人材派遣のコーディネーターとして入社したのですが、主な業務はバス添乗員のアサイン。コーディネーターの業務ができなかったので、4カ月で辞めました」
2社目はクライアントの企業に産業医を紹介する業務に約3年くらい従事しました。3社目はメーカーで7カ月です」
大:「2社目は長かったんだね。3つの会社で働いてきた中で、一番はどの会社がハマっていた? 」
メイ:「2社目です」
大:「どうして? 」
メイ:「2社目の会社ではクライアントに産業医の先生を紹介する仕事でした。クライアントの会社で働く従業員の人たちの健康をサポートするという最終目標がありました。社会的にも貢献度が高くて、やりがいを感じていました」
「また、同僚との関係も良好で働きやすい環境でした」
2社目の会社でやりがいを感じながら働いていたメイさん。ではなぜ、転職したのでしょうか。
大:「どうして2社目の会社を辞めて、3社目に転職したの?」
メイ:「3社目の会社は韓国商品を扱うメーカーで、学生の頃に学んでいた韓国語を生かせると思って転職しました」
「知人の転職エージェントには韓国語を生かせる求人は珍しいと言われていたのですが、韓国の企業に化粧品や香料を提案する業務の社員を募集していると知って、運よく内定をもらいました」
「しかし、求められる韓国語のスキルが不足していて、3カ月前に辞めてしまいました」
大:「なるほど……。それで、今転職活動しているんだね。もし、2社目の会社に戻れるなら、戻りたい? 」
メイ:「戻りたくないです」
大:「何で? 」
メイ:「古巣に戻るっていうのが、自分にとって、すごろくでいう『戻る』みたいなイメージで、キャリアを進んでいる感じがしないんです」
「仕事もしていなくて、早く決めたいという思いが強く、不安もあります。ふと、戻れるなら戻りたい気持ちも浮かんだりもします。でも、戻ったとしても、自分が納得はできないということは自分でも分かっているんです」
大:「28歳までに3社を経験した中で、1社目の4カ月のところは短く感じる人はいるかもしれない。面接では、過去の業務はもちろん、当時の転職理由も求められるから、ちゃんと説明する必要はある」
「今の話を聞くと、辞めた理由に関して言い訳はしていないし、自分自身の反省するところも分かっている。その都度、自分の意思を持った決断で、それが結果的に違ったっていうところが伝われば、企業も分かってくれるはず」
「ただ、受け入れられない会社もある。会社の社風だったり、20代で3社勤めた経験者が社内に1人も働いていない会社だったりする場合にあり得る」
「一方で今、転職が当たり前になってきていて、20代で転職していることが1個プラスになるような時代。転職をしたことがあるのも経歴としてプラスに働くと思う」
「大手企業で、一つの業界や業務の経験を積んできたプロパーとは違うかもしれない。けど、新しい会社の文化に馴染んだり、3社全部違う業務に従事したりしてきた経験は強みに変えることもできる」
大さんは、メイさんがなぜ、人材開発に関わる仕事にこだわっているのかを深く聞いていきます。
大:「人材開発は人材業の中で、最高峰にある。エージェントだったり、キャリアカウンセラーだったり、コンサルだったり、ステップを踏まないと厳しい世界。今回の転職で人材開発に関わる仕事に就きたいとなると過去のそうした実績もないから、かなり狭き門」
「そうした時、今すぐじゃなくても人材開発に関われる人になりたいのか、20代の今だからやりたいのかって、自分の中でどんな感じ? 」
メイ:「最終的に、カウンセラーみたいな仕事に就きたいと思っています。傾聴しながら人の能力を引き出したり……」
「そのスキルを積むために、人材開発だったり、人材教育みたいなところに携わりたいと思っています」
大:「どうして、カウンセラーなの? 」
メイ:「困っている人を助けたいとか、人の役に立ちたいとか、そういうところが一番根底にあります。人間が好きなんです」
「これまで、3社でやってきて、一番好きなのは、取引先のクライアントにサービスが売れて嬉しかったことではありませんでした。そのクライアントの愚痴を聞いたり、悩みを聞いたりして、その人が『スッキリした』と言われるのが、すごく嬉しかったんです」
大:「いわゆる転職エージェントやキャリアカウンセラーという道は考えてない? 」
メイ:「考えたことあります。キャリアカウンセラーは求職者は無料でカウンセリングを受けられますが、求人を募集している企業からお金をもらってっていう形なので、企業が第一顧客みたいなビジネスモデルになりますよね。求職者の人に、企業の意図したコミュニケーションを取らなきゃいけないのが、自分の中で結構ジレンマを感じるんです」
大:「考え方はキャリアに向き合う人には、すごく向いてると思う」
「いろんな方法があって、定職につきながら勉強したり、キャリア系のコミュニティに参加したり、セミナーを受講したりもできる。今は平日にオンラインでも受講できる環境が整っているので、積極的に活用してもいい」
「将来キャリアカウンセラーの道に進むのであれば、キャリア系の仕事はしていたほうがいいと思う。説得力が全然違うから。採用側ではなく、求職者に寄り添っているエージェントもあるから、リサーチした方がいい」
キャリアに関わる仕事に就いた方がいいとアドバイスした大さん。期間を決めて、求職者と採用企業にも関われるエージェントで経験を積むことを勧めます。
メイ:「結構、エージェントにもいろんな形態がありますよね」
「例えば、エージェント1人が求職者と企業側の両方に関わる『両面型』のビジネスモデルや、求職者と採用する企業側をそれぞれ、別の人が担当する『分業型』がありますよね。後者が向いてますよね?」
大:「後者のいわゆるキャリアカウンセラーが向いているね」
「ひたすらに人の相談にのっていくっていうところは向いているし、やりがいも感じると思う。ただ長い目で見ると、経歴として求職者側も採用側も担当したことがある方が良いという側面もある」
「例えば、2、3年くらいは勉強期間だと自分の中で決めて、大手の人材会社でキャリアカウンセラーをするとか、もしくは両面型でエージェントで経験を積むのはお勧めかな。約2年間、頑張ってみて、そのぐらいのタイミングで自分がどういう道に進むのかっていうのを考えてみてもいいのかもしれない」
「目指す先がカウンセラーで、人の役に立ちたいというのがポイントでなってくると、やっぱりキャリアカウンセラーやエージェントだと思う」
メイ:「自分の不安が解消され、進むべき方向が分かった気がしました。ありがとうございます」
メイさん、「ジョブホッパー」の不安は収まり、まず進むべき方向性が見えたようです。
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就活や仕事で悩む若者たちの本音が聞こえてくる「新卒相談BAR」。連載シリーズは金曜に公開予定。
(取材・文:比嘉太一、撮影:是枝右恭、デザイン:高木菜々子、編集:野上英文)