「チームで物事を解決する仕事がしたい」と、学生時代からコンサルティング業界を目指していた秋山さん。大学のゼミでも、組織・人材開発といったコンサルと縁の深い分野を学んでいました。
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社(DTC)に新卒入社してすぐ、数千人規模の企業の合併にともなって、人事制度設計のプロジェクトに加わります。
社員5千人以上の規模であるDTCで、「新卒1年目の若手はそこまで大きな役割は与えられないだろう」と考えていましたが、実際は違いました。
データ分析や資料作りといった仕事だけでなく、クライアント企業の社員を前にしたプレゼンテーションや会議の進行といった重要な任務も任されることになったのです。このプロジェクトでは、計9カ月間にわたって、最初から最後までクライアント企業と向き合い、評価や報酬などの制度作りに携わりました。
「自分の作った提案が大企業の意思決定に関与することになる。入社1、2年目だろうが、期待してくださる顧客には関係ない」
入社する前の想像をはるかに上回る任務や裁量の大きさに、やりがいとともにプレッシャーを感じています。
ここから時計の針を「就職活動を終えたあと」に戻しましょう。
内定を得た直後、秋山さんは「燃え尽き状態になってしまった」と振り返ります。
「それまで就活のことばかり考えていたのに、急にやることがなくなった」
背負っていたストレスやプレッシャーがなくなり、メンタルは逆に少し落ち込み気味になったそうです。
ただその後、社会人生活がスタートする時期が近づくにつれて、徐々にやる気が回復していきます。
卒業を控えた半年間は「入社に向けてできることはやろう」と、準備に真面目に取り組みます。大学の単位取得や論文執筆をコツコツとこなしつつ、内定企業のDTCから入社前の課題としてもらった簿記やTOEICなど資格取得の勉強を進めます。
さらに、入社後の業務の予習もしておこうと、コンサルティングやロジカルシンキングといった関連ジャンルの本も自主的に一通り読みあさりました。
ひたすら勉強一辺倒というわけでもなく、友人と旅行に出かけるなど、卒業を控えた大学生らしい経験もしていました。
ただ、一つだけ心にとめながらも、腑に落ちずに、実行できなかったことがあるといいます。
それは、卒業と入社まで半年以上ある「社会人0年目」の過ごし方。就活の最終面接で、向き合った役員や経営者たちに必ずといっていいほど質問して、耳にしたある“助言”に紐づいています。
「内定が出た後、何をやったらいいでしょうか」
こう聞いた秋山さんによく返ってきた答えが、「遊んどいた方がいいよ」でした。
大学生だった当時、この「遊ぶ」という言葉の意味がピンときません。旅行なのか、それとも飲みに行くことなのか。
「遊ぶって何だろう」
大学生活最後の半年間を過ごす頭の中で、ずっと引っかかっていました。
いまコンサルタントとして充実しつつも、忙しい社会人生活を過ごす中で、秋山さんは面接で聞いた「遊ぶ」の意味がようやく、自分なりにつかめてきたそうです。
それは「目的から外れた、目的のない行動」だといいます。
「社会人になると、平日の仕事だけでなく、土日の時間の使い方にも目的がある。資格を取るために勉強する、リフレッシュするために旅行する」
「こうした何かの目的のために、合理的に時間を使うのが社会人。仕事の生産性向上という目的を持たない行動は、職場ではあまり肯定的には受け入れられない風潮がある。でも、大学生は先を考えない時間の使い方ができると思う。これが役員たちが口々に勧めた『遊び』なのではないか」
振り返れば大学生のころから、秋山さんはあまり遊んでこなかったといいます。
就職活動が本格化するより随分前の2年生の時、プログラミングなど就活に役立つスキルを自習して先取りしました。
そして、内定後も、語学やコンサルティング業務の勉強など、常にその先の「社会人生活」を見据えた行動ばかり。旅行でさえも「仲間内でわいわい楽しむ」という目的ありきで、旅行そのものをしたかったわけではなかった、といいます。
就活を成功させるため、そして入社後の社会人生活を順調にスタートさせるため。事前に勉強や準備は欠かさず、堅実に準備を重ねていく。こうした姿勢は、学生として真面目で、模範生のように思えます。
ただ、秋山さんは「一度、目的に沿って行動することに慣れ、自分の理念にしてしまうと、外れることが怖くなる」とも指摘します。
思い返せば、就活を終えた直後に感じた急な気分の落ち込みは「人生の目的がなくなった」状態への不安でもありました。
「自分は今まで、敷かれたレールの上をいかに速く効率的に進められるか、ということだけを考えていた。就活を終えるまでずっと敷かれていたレールが、内定後に一瞬なくなって、『あれ?』と思ってしまった…」
社会人2年目のいま、こうして「社会人0年目の自分」を客観視できるようになりました。
そして「遊びとは、このレールから外れる練習ではないか」と今、感じています。
所属するコンサルタント業界は、社員の入れ替わりが比較的激しく、新卒から定年まで終身で勤め上げる人はまれです。年功序列の文化やシステムが残っている企業とも違うことで、広く知られています。
そうした職場環境に身を置いて、人生やキャリアとの向き合い方を考えます。
病気や事故といったアクシデントでキャリアが断たれたり、変わったりすることがあります。また、より良いキャリア・生活という新しいレールを自ら見つけ、挑戦するために、既存のレールからあえて外れるということもあるでしょう。
秋山さんは「目的に縛られた行動から遊びを通じて一歩踏み出してみる。その経験を積んでおくことが、人生で当初に想定していた『レール』から、意図するしないにかかわらず外れた時、役に立つのではないか」。そう考えるようになりました。
大学時代の友人たちも目的意識が高く、就活や仕事に備えてしっかり準備や勉強をするタイプが多かったそうです。先行きが見えづらいVUCAの時代に、秋山さんたち若い世代において「目的重視」の思考や戦略は、自然な選択だとも言えるかもしれません。
秋山さんはそうした思考や選択を肯定しつつ、後輩にこんなエールを送ります。
「将来の目的とは関係なく『今これがしたい!』という気持ちに素直に従って、大学生活を充実させてほしい。僕は少なくとも、そうやって過ごしたかった、と思っている。社会人である今の自分は、怖くてできないから」
しっかりした目的意識を持って就活を成功させ、充実した社会人生活を送っている秋山さん。ただ、それでも心の内に残る一種の後悔。そこから出てくるアドバイスは、現役の大学生にとって、きっと大きな意味を持つでしょう。
ちなみに社会人2年目の今、一番やりたい「遊び」は旅行だそうです。行き先や行動の目的を定めた一般的な「旅行」は学生時代に友人らと何回も経験しています。仲間内でわいわい楽しむためでも、日頃の疲れを癒やしたいわけでもない。好奇心に任せて「見たことのないものを見る」旅に出たい、と願っています。
秋山さんは7月31日と8月6日、「キャリアのゼロイチまるわかりDAY! 社会人0〜1年目って何してるの?」というイベント(NewsPicksとワンキャリア共催)に登壇します。
このイベントでは、「社会人0年目」だけでなく「社会人1年目」の仕事ぶりも、他の登壇者たちと振り返ってもらいます。インタビュー記事の最後に、1年目の自分への助言もいただきました。
自分が将来どうなりたいのか、どういった仕事をしたいのかを考えるうえで、ロールモデルを見つけるのが良いと感じる秋山さん。「ロールモデルを見つけるには、まず組織内にどのような先輩・上司がいるのかを知る必要があり、先輩・上司とは積極的にコミュニケーションを取るのが良いと思う」と話します。
風潮として「仕事以外では上司と関わらない」という人が増えている面もありますが、「やはり経験が多い人が見る景色は、1〜2年目の自分とは違うので勉強になる部分が多いと感じる」といいます。
(取材・文:箱崎了、デザイン:高木菜々子、編集:野上英文)