就活「4人に3人落ち込む」ウェルビーイングな就活のためのコツ3選

就活「4人に3人落ち込む」ウェルビーイングな就活のためのコツ3選

    2023年6月1日、渋谷周辺で「このくらいの目線が、自信に効く。」という広告が掲載されました。歩行者の目線が自然と上がる仕掛けです。

    この広告は、「就活時に、学生の4人に3人は普段よりも気分が落ち込んでいる」という調査データが発端でした。

    なぜ、多くの学生が不安を抱きながら就活をしているのでしょうか。日頃から前向きになるための行動はあるのでしょうか。広告を監修した慶應義塾大学大学院の前野隆司教授に、日本の採用システムの課題と、ウェルビーイングな(充実した)心の状態で面接や就活に臨むコツを聞きました。

    目次

    目線を上げて歩けば 幸福度も上がる

    旧態依然の採用システム、もがく就活生


    新卒採用におけるダイレクト・リクルーティングサービス「OfferBox(オファーボックス)」を運営する株式会社i-plugは、2023年5月に就活生約1800人を対象とした「【2024卒対象】就職活動状況に関するアンケート」を実施しました。

    「普段より気分が落ち込むことが多いと感じますか?」という質問に対し、「感じる」と答えたのは47.1%。また「どちらかというと気分が落ち込んでいると感じる」という回答と合わせると、4人に3人に相当する、76.1%を示しました。


    目線を上げて歩けば 幸福度も上がる

    ──調査データを見て、前野先生は率直にどう感じましたか?

    前野:異常事態ですよね。冷静に考えて、4人に3人が同時に不安や不幸を感じている状況が続いているのはおかしいじゃないですか。

    私たち人間が打たれ弱くなっているというよりは、企業側の採用体制に原因があるのではないかと思います。社会システムの問題です。

    ──どこに問題があるのでしょうか。

    前野:多様なスキルや価値観を持った学生を受け入れる。そうした採用方針を実装できている企業があまりに少ないことです。長期インターンシップやジョブ型採用などの新しいトレンドも徐々に注目されていますが、日本の新卒採用の根幹は、いまだに画一的な「一括採用」にあります。

    会社ごとにカルチャーや採用したい人材は異なるわけですが、エントリーシート・Webテスト・面接という一連の採用フローは、どこか似通っています。そのため、現行のシステムにうまくかみ合って10社から内定を得るような人が現れる一方で、なかなか内定を得られない人も出てくるのです。

    そう考えると、学生の4人に3人が普段よりも落ち込むというのは、納得できる結果です。

    今や「多様性」を重視しようとする時代。

    学生たちのスキルや価値観を、画一的な指標で判断することは、ますます難しくなりつつあります。新しい価値を創出しうる人材を採用するためにも、企業が旧態依然の採用システムを見直す時がきたというべきでしょう。

    「幸せに働きたい」でも「生ぬるい職場はイヤ」

    ──昨今の就活生には、どんな変化があるのでしょうか。

    前野:キャリアに関する色々な調査を見ると、多くの若い世代が「幸せに働きたい」という考え方を持っているのは確かです。

    もちろん、それ以外の価値観もたくさんあるのですが、昭和時代に比べて、昇給や昇格をモチベーションの中心に据える学生さんは少なくなったように思います。1つの会社で我慢しながら働き続けるのではなく、転職しながらキャリアアップすることをよしとする世の中にもなってきましたから。

    また、“生ぬるい職場”を受け入れられないのも重要な点です。

    目線を上げて歩けば 幸福度も上がる

    部下からのパワハラ指摘を恐れて、上司が厳しく指導できないという会社も増えてきています。すなわち、一見ホワイト企業なんだけれども、上司からの期待も自分の成長実感も得られにくい企業も増えてきているのです。

    「お給料はしっかりいただいているものの、自分は一体なんのためにここで働いているんだろう......」。なんとも言えない感情に陥ってしまい、転職を繰り返す若者もいると聞きます。

    実はこの職場において自分の成長実感を得られるかを左右するのは、私が提唱する「幸せの4つの因子」における1つの要素「やってみよう因子」でもあります。

    ──「幸せの4つの因子」とは、どのような概念なのでしょうか。

    前野:「やってみよう因子/ありがとう因子/なんとかなる因子/ありのままに因子」の4つの因子に分けられます。

    これらは、約1500人の日本人を対象に、幸せに関する約80問にわたるアンケートを実施し、抽出された因子です。4つの因子を満たしている人は幸福度が高いことが分かっています。働くシーンで考えるとさらに細かく因子を分解できるのですが、まずは主要な4つの因子を覚えるといいでしょう。

    目線を上げて歩けば 幸福度も上がる
    前野教授の話をもとに編集部作成

    「高学歴だから大手に入らないと」見えによる苦しみ

    ──例えば「新卒採用」で、就活生が抱く不安を「4つの因子」で説明できますか。

    前野:「ありのままに因子」が、やはり損なわれているのではないかと思います。いい大学に通っているから、大手企業にいかないといけないみたいな見栄を張ってしまい、誰もがすり減っているのではないでしょうか。

    そもそも、企業の新卒採用枠には限りがありますし、社会的に良いと評価されている企業であれば、その競争率はさらに上がります。面接で口のうまい人が受かるケースもありますが、なんとか入社したものの、働き始めてすぐに自分らしさを見失って退職してしまう人もいます。

    私の大学のある学生も、ついこの間まで就職活動をしていて、この「見栄」「見栄え」に苦しんでいました。でも今は就職をせず、これから大学院に行くか、それとも起業しようかと真剣に考えています。ヨーロッパ各地やアメリカなどで「ギャップイヤー」という大学入学前の若者が1年間ほど仕事や社会について経験を積む猶予期間を指す言葉があるのですが、彼女にとって、まさにそういうタイミングなんだ、と見守っています。

    20代のうちは肩肘張らず、じっくりと自分が本当にやりたいことを探すべきですね。

    ──働き始めた若手社員が抱くような課題感も、この研究で分かっているのですか。

    前野:2020年にパーソル総研さんと実施した共同研究で、仕事というシーンに限定してさらに要因を抽出すると、幸せ・不幸せをもたらす因子がそれぞれ7つずつあると分かりました。

    中でも興味深かったのは、「オーバーワーク因子(ヘトヘト因子)」。

    残業時間を減らすことも重要なのですが、働く時間の長さ以上に人間関係が悪影響を及ぼすことが分かっています。良くない例としては、残業して頑張っている人に対して「全てのタスクを終えるまで、帰らせない」といった高圧的な態度をとる上司が挙げられます。

    そういったハラスメントや人間関係の希薄さに、今の若者は疲弊してしまっている。採用システムと同様に見直さなければならない課題だと捉えています。

    就活生の行動を変える、3つの習慣


    就活生のモチベーションを上げるために、2023年6月1日に株式会社i-plugは交通広告を展開しました。この日は、24卒に内々定が出され始め、25卒の夏インターン募集開始が始まるターニングポイントです。

    米・アトランティック大学の研究「上を向いて大股で歩くと幸福度が高まる」が活用され、渋谷駅のディスプレーと首都圏大学の周辺エリアに設置されている消火栓の位置を示す看板に書かれている文字を読むために、歩行者は自然と上を向いて歩くという仕掛けが導入されていました。


    目線を上げて歩けば 幸福度も上がる
    渋谷駅のディスプレーと首都圏大学の周辺エリアに設置されている消火栓の位置を示す看板

    ──前野先生は、改めてこの仕掛けをどう振り返りますか。

    前野:視線を上げて歩幅を広くすることは、即効性という観点でも効果がありますし、広告として業界からも注目されたので一定の成果はあったと言えるでしょう。姿勢を良くすること、さらに笑顔であることは、いつでも誰でも簡単に始められる習慣なので、ぜひ就活生の皆さんにも意識していただきたいです。

    ──これから就職活動に挑む大学1〜3年生に向けて、目線を上げること以外にぜひ身につけておいたほうがいい習慣があれば教えてください。

    前野:ほかにもいろいろとあります。1つは目上の人と話す機会を積極的につくること。OB・OG訪問で20〜30代の先輩と話す機会はあると思いますが、40〜60代の方にこそ話しかける習慣をつくるべきです。

    私が教鞭を執る慶應義塾大学院がその分かりやすい例です。生徒の7割が30〜50代の社会人で、残り3割がこれから就職を迎える23〜24歳の若手メンバーです。何十年もの社会人経験を持つ人たちと日頃から対話してきた若手メンバーは、いとも簡単に内定を取ってきます。先輩方と何度もディスカッションを重ねたことで、なんとなく相手が知りたいことを想像し、うまく受け答えができるようになったのでしょう。

    最終面接の面接官の多くは、自分の子どもと近しい年齢だけど、職場ではほとんど関わることがないZ世代に対して、一体何を聞けばいいのかと逆に冷や汗をかいていると思いますよ。学生側が面接をリードするんだ、くらいの気概で臨んでほしいですね。

    面接対策本は、大事な個性をそぐ

    前野:2つ目は、日頃から「ネガティブな表現」をしないこと。日頃の会話で、「でも」「だって」みたいな接続詞をつけて話し始める方も多いのではないでしょうか。

    ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)などの自己PR文は何度もブラッシュアップするので、何も見なくてもスラスラ話せる人がほとんどだと思います。しかし実際の面接では、これまで想定もしていなかったような質問が突然投げかけられることもあります。そんな時に、日頃からネガティブな表現ばかり使っていると、つい反射的にそのような表現が口に出てしまうものです。

    黙り込んだり、ネガティブな表現を使ったりすることなく、「その質問難しいっすね。考えたことなかったです。今、自分なりに考えてみますね」くらい前向きに受け答えできた方が、粗削りではありますが、面接官にはすがすがしく映るのではないでしょうか。

    ①目線をあげること、②目上の人と話す習慣を作ること。③ネガティブな言葉を日頃から使わないこと。この3つの意識だけで、変化が起きると思います。

    もっと本質的には「自分は人生をかけて何をしたいのか」を考えてほしいですね。これは多くの就活生にはまだ難しいかもしれません。企業の採用担当の方だってまだ分っていない人が多いような大きな問いですので。

    しかし、究極は、これです。自分らしい人生。ぜひ、考え続けて、いつの日か見つけてください。本当にやりたいことが明確な人は、もしも就活で落ちても、企業の側が未熟だったと考えてください。それくらい大事なことです。

    目線を上げて歩けば 幸福度も上がる

    ──逆に、これはやめておくべきだと思う就活対策はありますか。

    前野:個人的には、面接対策本に頼りすぎないようにと学生たちに指導しています。論理的な回答力は身につくのですが、読めば読むほど型にはまった回答になってしまい、個性も一緒にそがれてしまいます。ここでも、荒削りでもいいから、素の自分らしさを出すことをおすすめします。

    ──最後に、未来の就活生に向けてメッセージをお願いします。

    前野:今の若い人は、感覚的に「自分がどうなりたいのか」を理解している人が多いと思います。だからこそ、周りに対して見栄を張ろうと無理な就活をして精神をすり減らすのは、本当にもったいない。

    一度入社したって、今や転職する人もたくさんいるので、もっと気楽に就活に臨んでくださいね。あなたらしくいることで、もっと幸せなキャリアがひらけますから。

    (文:池田怜央、デザイン:高木菜々子、撮影:赤松洋太、編集:筒井智子)