「うちの子が内定した会社は大丈夫?」「こういう職場で働いてほしい」......。24年卒の就職活動で内定率が高まるなか、子供の内定・就職先に気を揉む保護者が増えています。
大学も企業も、保護者向けの説明会や家庭訪問など、あの手この手で「バイアス(先入観)」を取り払おうと工夫しています。「保護者の就活」の実態を取材しました。
「うちの子が内定した会社は大丈夫?」「こういう職場で働いてほしい」......。24年卒の就職活動で内定率が高まるなか、子供の内定・就職先に気を揉む保護者が増えています。
大学も企業も、保護者向けの説明会や家庭訪問など、あの手この手で「バイアス(先入観)」を取り払おうと工夫しています。「保護者の就活」の実態を取材しました。
「まさか反対されるとは思っていませんでした」
福岡県内の大学で商学部に所属する男子学生(21)は、就活で第一志望だった不動産会社からの内定を承諾しようと、父親に話したところ反対され、別の内定先を勧められました。
第一志望は東京の不動会社。一方、地元の地方銀行からも内定をもらっており、父親はこの地銀に進んで欲しいと言います。
「銀行には父親の友人もいて、息子だと知られるのも少し気まずい。何よりも第一志望の会社に入社したい」
反対を振り切って、不動産会社に入社するつもりだといいます。
マイナビの調査では、「子どもの就職活動に、どの程度関心がありますか?」という質問に、7割以上が「関心があった」と答えました。
子どもの就職活動で「どんなことで不安になったか?」
この質問への保護者の回答上位は、次の通りでした。
・子どもが志望業界から内定がもらえるのか(38.7%)
・子どもの就職活動の進捗状況が把握できていない(36.7%)
・子どもが1社でも内定をもらえるのか(30.8%)
少子化で学生優位の「売り手市場」のなか、こうした「親の就活への不安」を和らげようと、保護者向けに就職説明会を開く大学も増えています。
北九州市立大学(福岡県)が7月8日に開いた対面・オンライン配信の説明会には、計450人の保護者が参加しました。
「学生向けに就職説明会を開いても、なかなか参加者が集まりませんが、保護者向けの説明会では多くの保護者が参加しています」
同大学就職係の担当者はこう話します。
この説明会では、就活サイトの職員に登壇してもらい、保護者の時代とは大きく変わった就職活動の現状のほか、保護者による就活生との関わり方を話してもらったといいます。
「23年度、24年度卒の学生は、コロナ禍でオンライン授業に移行して、学生生活を家族と一緒に過ごしていた割合が例年より高いです。学生との関係性が強く、保護者も就職活動に関心の高い人が特に多い印象です」
東京都内の青山学院大学や早稲田大学では、保護者向けの説明会の動画をホームページ上で公開しています。売り手市場でも実態は過酷ともいえる就活の実態や、就活生を騙そうとする「就活ビジネス」への注意喚起を、約1時間半の動画で紹介しています。
「ウチの大事な子どもを、おたくの会社に入れて本当に大丈夫なんでしょうか?」
東京都内の会社の人事担当責任者に、1本の電話がかかってきました。
就活生に内定を出した数日後、その親から人事部に直接、電話があったのです。
来春には社員になる学生の魅力や内定を出した理由、会社の将来性を説明して、納得してもらったといいます。
人事責任者:「親が子どもの将来を思う気持ちは理解できますが、年々、その傾向は強くなっていると感じます」
「人事担当から見れば、社会人としての『自立』には、親ではなく自分の意思で会社に入社する決断をすることがまず一歩。自分1人で決断できる人材が、入社後も指示待ちではなく、能動的に働いてくれるためです」
ただ、なかには、就職をきっかけに親子の関係がこじれるケースも少なからずあります。
それを防ぐために、この会社では新人社員研修で、親への感謝の手紙を書かせたり、社員の家庭訪問を通じて親との交流を深めたりしています。
人事責任者:「入社を決めてくれた大切な社員を家族が応援してくれないということは、会社は望んでおらず、職場でのパフォーマンスが下がる可能性もあります。社員を応援してくれる環境づくりを会社がしていくことも責務だと感じます」
(取材・文:鍬崎拓海、比嘉太一、編集:野上英文)