BARを訪れたのは、都内の人材紹介会社でエージェント(採用を検討する企業には求職者を紹介し、求職者には転職サポートを行う)として活躍している25歳のユキさん(仮名)。
1年半前にエージェントになり、現在はエンジニア採用を担当しています。
営業・キャリアアドバイザーとして活躍する中で、企業の人事職への転職で悩んでいるようです。
“しごと相談BAR”、本日も開店です。
BARを訪れたのは、都内の人材紹介会社でエージェント(採用を検討する企業には求職者を紹介し、求職者には転職サポートを行う)として活躍している25歳のユキさん(仮名)。
1年半前にエージェントになり、現在はエンジニア採用を担当しています。
営業・キャリアアドバイザーとして活躍する中で、企業の人事職への転職で悩んでいるようです。
“しごと相談BAR”、本日も開店です。
午後7時すぎ。店内のテーブル席に、1人で座るユキさんの姿がありました。
ユキさんが今の人材紹介会社に転職したのは約1年半前。新卒で入った求人広告の会社では法人営業を担当し、その後、都内の人材紹介会社でエージェントとして働いています。
ユキ「今、両面(営業・キャリアアドバイザー)のエージェントをしています。人事の仕事に関心があって、転職するかどうかで悩んでいます」
「チーン」
ユキさんが手元のベルを鳴らしました。
この日、BARでアドバイザーとして席に座るのは、元リクルートグループでキャリアコンサルタントを務め、現在は独立して転職相談エージェントや採用・教育コンサルティング事業を展開している高橋麻菜美さんです。キャリアアドバイザーとして年間約400人の相談に応じています。
麻菜美「ユキさんはどうして、人材紹介会社に転職したんですか?」
ユキ「前職は求人広告の法人営業をやってました。そのスキルを人材紹介に生かしたいと思ったからです」
「今の会社では、企業側とやり取りする『リクルーティングアドバイザー』(RA)と求職者側とやり取りする 『キャリアアドバイザー』(CA)のどちらも経験できます」
「BtoB、BtoCどちらとも関われることが魅力で、今の会社に入りました」
麻菜美「実際に今、IT企業の求職者を対象にしたエージェントをされていますが、どうですか?」
ユキ「求職者の採用が決まれば、成果として報酬がしっかり返ってきます。実際に1年間に達成しなければならない目標を3カ月で達成して、目標達成率が200%超えました。
麻菜美「それは凄いですね。CAに向いてます」
ユキ「また、日々求職者と会って仕事探しのサポートをしているので、毎日楽しく働けていると思います。でも、マイナスに感じている部分があって…」
エージェントとして、目標達成率が200%の実績を作ったユキさんですが、人材紹介は「運」に左右されることに、もどかしさを感じているようです。
ユキ「人材紹介をして、採用が決まれば終わり、みたいなところに、もどかしさを感じています。あと運にも左右されるなと感じて、正直なところ、自分の強みを発揮できないと感じています」
麻菜美「運?」
ユキ「実際に企業の面接を受けるのは私ではなく、クライアントの求職者です。私ができることは面接対策まで。本当にその求職者が面接を通過するのかどうかは、コントロールが利かないですよね」
麻菜美「確かにね。面接が上手くいかない可能性もありますよね」
ユキ「そこが若干、運もあると感じているんです」
麻菜美「前職の広告営業の時は何にやりがいを感じていたの?」
ユキ「法人営業の場合、クライアントの課題をヒアリングした上で、最適な手法を提案したり、求人広告には直接関わらない分野でも『こういうやり方があるんじゃないか』と提案したりしました」
「営業だけどクライアントと一緒に課題の解決法を考えることができる。そこにやりがいを感じていました。コンサルティングみたいな感じでしたね」
「CAの仕事でも、求職者のキャリアを導くようなことには一定のやりがいを感じます。でも私はどうしても“企業側の目線”で課題を解決する方が、やりがいを感じるタイプなんです」
これまでのキャリアから自身のやりがいが企業の課題を解決することだと知ったというユキさん。アドバイザーの麻菜美さんが人事職でのキャリア設計について助言します。
ユキ「企業の課題を解決する『提案』は法人営業でもやってきたんですが、最終的に提案された選択をするのは会社で、営業という形にかかわらずに叶えらえると思っています。前職で営業職は経験したので、次のキャリアステップとして人事に携わってみたいと感じてます」
麻菜美「そうですよね。営業はあくまでもクライアントとしての関わりになるけど、人事だったら自社内で起きていることを“自分たち事”として解決できるから、そこで経験を積みたいんですね」
ユキ「エージェントとしてクライアント企業の採用担当者の方とのやり取りはしてきましたが、人事の経験はありません。実際に働いている人ってどうなのか、気になっているんです」
麻菜美「人事の仕事はすごく細分化されています。採用だったり、社員教育だったり、コンプライアンスだったり、それらを一括して『人事』と呼んでいます。なので、人事の中でもどの分野にフォーカスして将来ビジョンを設計していくのか、目指していくのかをしっかり考えることが大事です」
「人事配置」という分野について関心があるというユキさん。そのきっかけが学生時代に働いていたスターバックスでの経験からでした。
ユキ「なるほど。これまで採用担当の方との関わりが多かったので、人事=採用を担当するイメージでした」
麻菜美「ユキさんが今、積極的に会社の課題解決に関わっていきたいという希望を叶えるためには、採用担当なのか、社員教育の担当なのか、それとも人事企画なのか、将来設計のイメージはありますか?」
ユキ「そうですね…最初は今も関わっている採用担当から入って、最終的にやりたいのは人事配置です。社員一人ひとりの強みを生かした配置で、企業の組織作りに関わってみたいと考えています」
麻菜美「それはどうしてですか?」
ユキ「学生時代にスターバックスでアルバイトをしたのがきっかけでした。『パートナー』と呼ばれるパートやアルバイトのスタッフをまとめるマネージャーを務めた経験があって」
「スターバックスではドリンクを作る担当や、接客を担うレジ担当など、役割が決まっています。その配置を決めるのがマネージャーで、1時間ごとに決めていきます」
麻菜美「学生時代にマネージメントを経験されていたんですね」
ユキ「そうなんですよ。お客さんが最も来店する忙しい時間帯や、逆に来店が少ない時間などを予測して、誰をどこに配置するのか考えていました。もしスキルが足りないパートナーがいれば、育成もしなければなりません」
「スターバックスで人の能力適性を見て、店舗内の動きが最適化するようなことを考える配置戦略にすごくやりがいを感じてきました。だからこそ、次は会社という組織の人事配置に携わりたいという思いが強いんです」
エージェントであることが人事としてキャリアを積む入り口として重要なようです。
麻菜美「最初は採用担当だと言ってましたが、その観点は大事だと思います」
「どの企業も人材を必要としてます。どの事業が人材不足なのか、新規事業をするからこういった人材が必要だとか、企業の課題を解決するのはまずは採用です。採用を見れば企業の課題や解決策が見えてくると思います」
ユキ「確かにそうですね」
麻菜美さんはユキさんが今、歩んでいるキャリアが最大の強みだと強調します。
麻菜美「人事職の中でも採用担当のポジションは、人事経験者もしくはエージェント経験が『3年以上』と書いてある求人票が多いのが実情です」
「企業の採用担当になれば、外部のエージェントとやり取りするからです。エージェントを経験していれば、エージェントとのコミュニケーションはスムーズにできるはずです」
「ユキさんは今、エンジニアの採用などに関わるエージェントとして実績を残していますよね。これは大きな実績になるんです。今、多くの会社が採用したいのはエンジニアなどの技術職なので、IT関連の専門用語が分かることは絶対に強みになります」
「求人票には、経験として『2年』もしくは『3年』と書かれていることが多いので、2年以上はやったほうがいいとは思います」
業務が細分化されている人事の仕事。大企業で働くのか、中・小企業で働くかで今後のキャリア形成にも大きく影響するようです。
麻菜美「私が人事を経験して感じたことは、大企業でやるのか、中・小企業でやるのかによって身につくスキルが変わってくるということです」
「大企業は人事業務が細分化されてるから、スペシャリストとしてのキャリア形成がしやすい。関連会社の採用などに携わることができるのもメリットの一つです。
「一方、中・小企業だと規模が小さいので、ゼネラリストになりやすい傾向があります。採用担当もやりながら、社員の給与計算や社員研修など多岐にわたって人事業務を担当するケースが多い」
「人事の特定業務でプロになりたいのか、人事業務全般をこなせるゼネラリストになりたいのかでキャリアプランが変わってきます。最終的に自分がどうなりたいか、ゴールセッティングして進めていくことが大事ですね」
ユキ「とても勉強になりました。人事の仕事が深く理解できました」
ユキさん、次のキャリアパスの指針をつかめたようです。
◇
働く若者たちの本音が聞こえてくる「しごと相談BAR」。連載シリーズは毎週、金曜に公開予定。
(取材・文:比嘉太一、撮影:飛塚倫久、デザイン:高木菜々子、編集:筒井智子)