企業の採用活動で応募者に求められる履歴書やエントリーシート(ES)。ここ最近、そこで性別欄をなくしたり、顔写真を不要としたりする企業が少しずつ増えています。
LGBTQ+(性的少数者)への配慮に加え、チャンスを公正にしたいという狙いからですが、課題もあります。
応募者のうちマイノリティは約9%いるとされ、LGBTQ+の採用支援をする代表理事は「性別不問は評価できるが、面接担当者の理解度が何より大事だ」と指摘します。
企業の採用活動で応募者に求められる履歴書やエントリーシート(ES)。ここ最近、そこで性別欄をなくしたり、顔写真を不要としたりする企業が少しずつ増えています。
LGBTQ+(性的少数者)への配慮に加え、チャンスを公正にしたいという狙いからですが、課題もあります。
応募者のうちマイノリティは約9%いるとされ、LGBTQ+の採用支援をする代表理事は「性別不問は評価できるが、面接担当者の理解度が何より大事だ」と指摘します。
「トランスジェンダーの人で、ESや履歴書に性別欄があって困ったという人が非常に多いです」
こう、強調するのはLGBTQ(性的少数者)の就職・転職活動などの支援をしている認定NPO法人「ReBit」で、代表理事を務める薬師実芳さん(33)です。
「選考の時に(例えばトランスジェンダーであることを)隠さなければならずに困ったという人や、就活スーツの着用といった服装や髪型で困っているケースもありますが、ESや履歴書に性別欄があって困惑している人が多いのが実情です」と説明します。
「ReBit」が、2022年にLGBTQの当事者2,670人に実施した調査によると、就職・転職を経験したLGB(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル)の35.7%、トランスジェンダーの75.6%が、「採用選考時に困難やハラスメントを経験」しているといいます。
とりわけ、トランスジェンダーの41.2%は、「ESや履歴書に性別記載が必須で困った」と回答しています。
ヘアケア商品などを販売する「ユニリーバ・ジャパン・カスタマーマーケティング」(東京都)は、ESに顔写真の添付や性別を問わない取り組みをしている企業の1社です。不要にしたのは2020年からで、ジェンダーにとらわれずに、個人の意欲や能力、ポテンシャルを見るためだといいます。
「『アンコンシャスバイアス』をできる限り最小限にして、採用試験でのチャンスを平等にしたいと考えています」と、担当者は狙いを話します。
アンコンシャスバイアス:「無意識の思い込み、偏見」と訳され、誰かと話すときや接するときに、過去の経験や習慣、文化などに照らして、無意識に偏りをもってみること。「この人は○○だからこうだろう」「普通は○○だからそうだろう」といった自己解釈。
就活生の学校名や性別などはマスキング(遮蔽)して、選考でも問わないようにしているといいます。
「ユニリーバは『Be Yourself(あなたらしさ)』を大切にして、人は自分らしくあるときにこそ、力を発揮し、輝けると考えています。選考試験で、すべてのバイアスを取り除いて100%フェアにすることは難しいかもしれないですが、できる限り最小限にし、チャンスが平等であるような選考を今後もしていきたいです」
大手化学メーカーの三菱ケミカルも2021年から、多様性を重視してESに性別欄や顔写真を求めていません。
選考でアンコンシャスバイアスを働かせる要因の一つに「性別」が挙げられたことから、性別を推測させる顔写真も合わせて不要にしました。
同社の担当者は「多様性が企業価値を創造する原動力となっており、経営戦略としても推進しています。企業の(対外的な)入り口である採用で障害となっているものがないか。社内で改めて検討した結果、性別欄や顔写真がピックアップされました」と経緯を説明します。
取り組みについては、「応募者だけでなく一般の人からも応援メッセージをいただき、高評価」だといいます。
一方、ESや履歴書に、性別の記載や顔写真の添付を求める企業のほうが圧倒的に多いのも実情です。
都内の大手企業の人事・採用担当者は「複数人で複数回の面接をする採用プロセスで、アンコンシャスバイアスを排除しようとしています。性別や顔写真の情報を不要にすることは、今のところ必要ないと考えています」と取材に話します。
ESに性別の記載や顔写真を求めない企業が少しずつ増えていることについて、認定NPO法人ReBitの薬師実芳・代表理事は「アンコンシャスバイアスが選考に影響を及ぼすことを防止することにつながりうる」と話をする一方で、完全ではないとも指摘します。
藥師さん:「ESに性別や顔写真を不要とすることは、LGBTQへの配慮に限らず、さまざまな特性や属性がある人へも公正な採用選考をする上で大事になってきます。一方、ESで顔写真や性別を不問にしていても、2次面接、3次面接で対面する場合は、見た目で属性や特性が分かる場合もあります」
「本当にアンコンシャスバイアスが採用に影響を及ぼさないか。さらに応募者が入社後に『ガラスの天井』なく活躍できるか。それらを見極めるには、企業側がダイバーシティ推進のための施策をされたり、文化風土をつくっているかが重要です」
国内ではLGBTQは9%(電通の調査)という調査もあり、薬師さんはカミングアウトをしていない応募者のなかにも一定数LGBTQがいつことを想定して採用活動をする必要があるといい、「面接担当者にLGBTQの理解を深める研修体制が整っているか。もし面接でカミングアウトを受けた時に、意図しないハラスメントをしないためにも理解が必要不可欠になります」。
(取材・文:髙栁綾、比嘉太一、編集:野上英文)