今夜1人でBARを訪れたのは都内の立教大学に通うタツヤさん(仮名)。22歳で大学4年生です。
大学では理学部に所属。卒業後は大学院へ進学する予定でしたが、何やら迷いが生じているようです。
“新卒相談BAR”、本日も開店です。
今夜1人でBARを訪れたのは都内の立教大学に通うタツヤさん(仮名)。22歳で大学4年生です。
大学では理学部に所属。卒業後は大学院へ進学する予定でしたが、何やら迷いが生じているようです。
“新卒相談BAR”、本日も開店です。
午後7時すぎ、宇多田ヒカルの「First Love」が流れる店内。オープンして間もないからか、客足はまばらで、ゆっくりとした時間が流れています。
落ち着いた雰囲気の中、1人でハイボールの入ったジョッキを傾けるタツヤさんの姿がありました。
タツヤ:「大学では理学部に所属していて、何となく卒業後、大学院に進む方向で考えていました」
「でも、本当にそれでいいのか、就職するべきか迷っています」
「相談、お願いします」
店内に声が響き渡りました。
BARでアドバイザーとしてカウンター席に座るのは、年間300件以上の就職や転職の相談に乗っている店主の二宮大さんです。
大:「大学院に進学する方向だったのに、どうして迷いが生じたの?」
タツヤ:「周囲の友達の多くが大学院に進学するので、自分も何となく進学する方向だったんです。でも、学部卒と修士卒で何が違うかと言われたら、正直、プログラミングができるようになっているぐらいしか、思い浮かばないんです」
「エンジニアになるのであれば大学院に進学して、プログラミングを深く学べるので良いとは思いますが、それ以外の職に就くとなった場合、就職した方がいいのかなぁーと考えてしまって…」
大さんはタツヤさん自身が進むべき方向の選択肢に何があるのかを尋ねます。
大:「今、自分の中で選択肢はどんなのがある?」
タツヤ:「選択肢だと、今から就活を始めるのもありですし、方向性を決めるための時間が足りないのであれば休学して、時間を延ばすのもありだと感じています。あと、大学院進学です」
大:「大学院という選択は、自分の中でぶっちゃけ、どうなの?」
タツヤ:「実は、自分の中で順位は低いですね」
大:「大学院進学の選択順位が低い中、何があったら順位が上がってくる?」
タツヤ:「可能性としては本当に熱中できる研究テーマを見つけられたら、選択の順位も上がってくる可能性もありますね」
大:「なるほど。でも、関心のテーマを見つけて勉強しても、試験に間に合う話ではなくなってくるよね?」
タツヤ:「そうですね。でも、今のところ院に行くという選択肢も考えて、試験勉強はしているので、それが決まったら、もう就職のことは何も考えずに勉強だけに専念できます」
大:「今、タツヤくんに必要なのは、自分で期限を決めて、今ある選択肢の中から、決めていくことかな。今のままだと全部、中途半端になる可能性がある」
タツヤ:「そうすね。今、そう感じていて…」
大:「時間は有限だから、選択してその後、限られた時間集中して決めたことに向かうことが大事」
「話を聞いていると、何でも器用にこなせるタイプだから、『器用貧乏』(器用で何でもこなすことができるがゆえに、どれも中途半端で大成しないこと)が発揮される可能性がある」
タツヤ:「本当にそうなんです。周囲には大学院に進学する人がいて、その友人たちと比べたら試験勉強も全然進んでいないですし、かといって就活していた友人らは内定をもらって、終わっている人たちもいる」
「焦りますよね。結局、自分は何がやりたいんだろと思ってしまいます」
大:「将来何したいのかを考える前に、自分がやりたくないことはある?」
タツヤ:「何となくですが、ある程度、周りから認められるような仕事ではないと自分の性格的にやりたくないと思います。なので、熱中できて、周りに誇れることをやっていると実感できれば、熱中できます」
大:「今までの人生で熱中できたことって何がある?」
タツヤ:「大学受験の勉強です。始めたきっかけは上京したかったからでした。親は『地元の公立大学にしか行かせない』と言っていて、地元の公立大学よりも偏差値の高い大学だったら行かせてくれるだろうと思って高校1年から猛勉強したんです」
「高校1年から猛勉強している人はいなかったので、席次が上がっていて、勉強が周りよりも誇れる存在になってました。やればやるほど自己肯定感というのが上がっていって、熱中していました」
「結果は、東京の第1志望の大学は落ちましたが、良い経験だったなと思います、最終的には自分が成長しているというのがモチベーションになっていました」
タツヤ:「見切り発射でも就活を始めた方がいいんですか?」
大:「これまでの話から、成長がある環境に熱中できるタイプ」
「だから、なんとなくで就活をした時に今は学生が『売り手市場』も相まって、多分なんとなくで、内定をもらえたりする。なんとなくで就職した先に納得感をもって決めてない分、成長ができない環境だったり、誇れる仕事でなかったりすれば辛い思いするかも」
「まず、就職活動をするのであれば、いろいろな会社の事業とか見た方がいいし、働いている人に会えるなら会った方が良い」
「何のために働くのかとか、自分のキャリアの中で何を価値観として大事にしたいのかを考えることが大事。めっちゃ稼ぎたいでもいいと思うし、何か自分で将来的にこういうものを生み出したいとかでもいいと思うし、何を動機にしていくかというのとちゃんと向き合ってスタートして、熱中できる仕事を見つけた方がいい」
タツヤ:「そうですね」
大さんはタツヤさんが将来をどう思い描いているのか、深掘りして聞いていきます。タツヤさんは起業する夢を語ります。
大:「将来、長い目で見て、自分で決めていることって何かある?」
タツヤ:「絶対に起業したいと思っています」
大:「起業する?」
タツヤ:「はい!」
大:「なんで?」
タツヤ:「数カ月前に就活サイトを運営するベンチャー企業でバイトを始めたんです。そこで、働いている人たちと関わる中で、自分で新規事業やっている人や起業する人たちって生き生きしていてかっこよくて、輝いて見えたんです」
「本当に漠然としてますが、自分が起業できたら良い人生になるんだろうなって思います」
「もし、就職しても自分の中では最終的に起業したい。だから、起業できる能力がつく場所を選びたいです」
大:「将来自分で起業することは決めているんだよね…よし、1社目は金融に行こう」
タツヤ:「金融ですか? どうしてですか?」
大:「起業や事業で絶対に必要なのが『お金の勉強や知識』。それがある人とそうじゃない人ではやっぱり事業の作り方、成功の仕方が変わってくると思う」
「そこで、働きながら、会社ってどう成り立っているの? 事業ってどう成り立っているの? お金の流れってどうなっているのか? どうしたらお金を借りることができるのか? そもそもお金って何?っていうところを働きながら体感するのがいいと思う」
「3年働いてお金のことを知る。その後に自分がやってみたい方向性のある会社に転職して、最終的に起業する方向性がいい。金融業界はありだと思う」
タツヤ:「考えたこと、なかったです」
大:「銀行などの金融業界は事業のリアルが1番に見える。会社の決算書とか、いろんな状況が見れるんだから『この会社はこういう事業をやっていて、こんなビジネス構造になっているんだ』といったことが全部分かる」
「『自分だったら、こういう事業をやってみようかな』『これは思いがあるけど儲からないんだ』とか、いろんなことが見えてくる。起業するためのファーストキャリアとしてはうってつけだと思う」
大さんは、金融業界の振り出しを経て、その後に起業して活躍する働き世代についても紹介しました。
タツヤ:「まったく考えてもみなかった業界だったので驚いてます。起業するステップとして考えてみます」
タツヤさん、将来のキャリアを見据えた足元を見つめ直し、ファーストキャリアの選択肢の一つにも関心を持ったようです。
◇
就活や仕事で悩む若者たちの本音が聞こえてくる「新卒相談BAR」。連載シリーズは金曜に公開予定。
(取材・文:比嘉太一、撮影:是枝右恭、デザイン:高木菜々子、編集:野上英文)