「他の会社にお断り入れた?」「内定承諾書に早くサインして」......。
複数の内定をもらった就活生に対して、企業が就職活動を終えるよう迫る「オワハラ」が表面化しています。
2024年卒の内定率が約8割に達するなか、現場の声を拾い、対策をまとめました。
「他の会社にお断り入れた?」「内定承諾書に早くサインして」......。
複数の内定をもらった就活生に対して、企業が就職活動を終えるよう迫る「オワハラ」が表面化しています。
2024年卒の内定率が約8割に達するなか、現場の声を拾い、対策をまとめました。
「面接の時に話していた他の会社には断り入れた?」
福岡県内の大学で経済学を学ぶ男子学生(22)は最近、内定を受けた専門商社のから「内定承諾」をするなら他企業の選考を辞退するよう電話で迫られました。
「承諾する場合は他の企業の選考を辞退して」「いつになったらお断り入れるの」......。
内定先の担当者から、週1、2回のペースで電話がかかってきます。
この学生は取材で打ち明けます。
「就活への焦りもあったので、いったんは内定を承諾することにしました。その際に今後、他の企業の採用試験を受けない、という誓約書にサインさせられました」
内定受託に法的な拘束力はないと知っていたとしても、来春から働こうと考えていた就職先への印象にも悪影響を及ぼします。
「学生の中には圧力に感じてしまい、怖いと感じる人も少なくないでしょう。企業の印象はぐっと悪くなりました」
別の大学院で農学研究科に通う女子学生(24)は、企業からダイレクトに迫られないものの、別の形で「圧力を感じて、就職活動をそれ以上は続けるのが難しかった」と取材で語ります。
その圧力とは、教授らの推薦状の提出を企業に求められたことです。
製薬会社の研究職を目指して就職活動をしていましたが、どこの会社でも推薦状を求められるといいます。
「法律的には内定を辞退しても問題ないのでしょうが、推薦状をいったん出してしまうと、書いていただいた教授や、今後この会社に入社したい後輩のことを考えると、簡単に辞退はできません」
企業側も、学生側の“良心”を見透かしているようです。
「推薦状は『早く書かせたもの勝ち』なところがあるようです。私の場合、第2志望の企業の最終面接を受けると聞きつけた第1志望の企業が、面接日を急きょ早めてくる、ということがありました」
どちらも内定で推薦状の提出を求められたため、女子学生は第1志望の企業に送りました。ただ、日程が元のままで第2志望の選考が先に進んでいれば、そちらに推薦状を送り、「それを理由に第1志望の企業を辞退していたと思います」と振り返ります。
このように、内定を出した企業から就活生に就活を終えるよう迫ったり、推薦書や内定承諾書の提出を求めたりする「オワハラ」(就活終われハラスメント)の実態が浮き彫りになっています。
就職サイトなどを運営するリクルートの調査によると、2024年卒就活生の内定保持率は79.6%(6月1日現在)に上ります。そのうち、20.7%の学生が「内定を保有したままにしている」といいます。
「本命の選考がこれから」
「もっといろいろな企業を見てから決めたい」
早く終わらせたい気持ちを持ちながらも、そう考えている学生も少なくないようです。
こうしたなか、実態として「オワハラ」が起きていることが、文部科学省が実施した調査でも明らかになっています。次のような事例です。
「内定承諾書(誓約書等)を3日以内に提出してください。 提出をもって正式に内定といたします」
「他社の選考を今ここで断りの電話を入れられますか? 第1志望と語った、あなたの誠意を見せてください」
「内定を出すには教授の推薦状を1週間以内に提出すること が必要です」
こうしたなか政府は今年4月、オワハラを防止するよう、日本経済団体連合会(経団連)や日本商工会議所などの経済団体に要請しました。
松野博一官房長官は6月1日の記者会見で、「オワハラは許されない行為であり、政府としても企業や大学に、相談窓口の設置を呼びかけるなどその防止に努めている」と述べました。
経団連や日本商工会議所は、適切な就職活動を実施するよう企業に呼びかけています。
社会問題となっているオワハラに、学生はどう対応すればよいでしょうか。
ハラスメント防止を目指す「日本ハラスメント協会」の村嵜要(むらさき・ かなめ)代表理事は、「大学のキャリアセンターや労働局などに相談し、代理で交渉してもらいましょう」と呼びかけます。
村嵜:「内定をもらった立場の弱い就活生が、企業側から『他の企業の選考を辞退してください』などとオワハラを受けた場合、その場で『オワハラだ』と指摘したり、拒んだりするのは難しい現実があります」
「その場で すぐに判断せず、『いったん検討させていただきます』と言って、持ち帰りましょう。内定を承諾するのか否か、就活を継続するのかどうかを冷静に考えることがまず重要です」
「そして、もし就活を続けるのであれば、内定承諾の期限を先延ばしにしてもらうように掛け合うのが第一歩です。政府が発表しているオワハラ防止対策の資料を手元に置いたり、場合によってはそれを企業側に示すことも有効です」
また、強く迫られた時、企業との交渉を就活生自身が抱え込んでする必要はないともいいます
村嵜:「厚生労働省が管轄する労働局では「就活ハラスメント」の無料相談に応じているので、大学のキャリアセンターも含めて、代理で交渉してもらう対応を検討しましょう」
自分自身でオワハラの事例や実態を知っておくことも備えにつながります。大学側が主催しているオワハラ対策講座にも目を向けてリテラシーを少しでも高めておくよう、村嵜さんは助言します。
村嵜:「仮に内定を承諾してしまってから断ったとしても、法的には問題ないので大丈夫です」
「オワハラが生まれ、続く背景には、学生優位の「売り手市場」であることや企業が採用にかけるコストを抑えたいという事情があります」
「ただ、入社を最終決定するのは就活生であり、企業が完全にコントロールすることはできません」
学生のハラスメントに対するリテラシーは高くなっており、企業側はむしろ、内定を出したあとに「安心して、よく考えてくださいね」という姿勢を見せることが必要でしょう。
(文:鍬崎拓海、デザイン:高木菜々子、編集:野上英文)