起業したNEWRON株式会社で代表取締役社長を務めながら、複数のコミュニティで運営役も担う西井香織さん。職場からZoomでインタビューしました。
ーー西井さんはいま、どんなコミュニティで働いているんですか?
西井:2つあります。1つ目は三井不動産が運営しているシェアオフィス「ワークスタイリング 東京ミッドタウン八重洲」で、月に8日ほど勤務しています。ここは契約企業の社員さんたちが利用しています。また法人登記もできるので、会社のオフィスとして使っていただくケースもあります。
また、楽さん(#02に出演)も関わっている大手飲料メーカーで、月に2〜4回ほどのペースでイベント運営もしています。
ーー「ワークスタイリング」では具体的に何をされていますか?
西井:会員同士をマッチングことと、イベントの開催をしています。マッチングによって、新規事業を創出するきっかけが生まれたり、新しい営業先が決まったりという声もあります。
また、参加者同士がさまざまな課題にアイデアを出し合う「アイデアソン」という企画も催しています。例えば、「会員企業が持っている知財を活用して新規事業を生み出せないか」「日本の伝統文化である茶道を現代に合った形にできないか」といったテーマで過去に企画しました。
そうしたニーズは、利用者全体のうち1割近くでしょうか。イベントなどに興味を持って参加してくださっています。シェアオフィスの主な利用目的は、やはり働く場所として活用したいというのが多いです。

ワークスタイリングで働く西井さん=提供
ーーシェアオフィスでコミュニティマネジャーを置く意味は何でしょうか?
西井:コロナ禍を経て、最近はいろいろな会社がシェアオフィス事業を展開しています。ただ単に入居してもらって、代替オフィスとして使ってもらうだけではなく、競争優位性をどう作るかという観点があると思います。
コミュニティマネジャーがいることによって、シェアオフィスで新しい出会いがあったり、イベントに参加できたり。そういったソフトなサービスを提供できると伝えることで、「このシェアオフィスを選ぼう」と検討いただく。コミュニティマネジャーが置かれたことで、入居の延長を決めた企業もあります。
ーーコミュニティマネジャー同士で求人を紹介し合うリファラル(推薦、紹介)が多いとも聞きました。西井さんはどうやって探していますか?
西井:確かにリファラルが多く、私もコミュニティマネジャーをしている知人から仕事を紹介されたことがあります。また、友人がコミュニティマネジャーたちを束ねるATOMica(アトミカ)という会社を運営していて、そこから紹介されたこともあります。
実際にやってみての感想は、日本人はやっぱりシャイな方が多いんですね。海外であれば初対面でもどんどん話を聞きますが、日本人はそうでもない。だから、人をつないで、お互いの理解を促すコミュニティマネジャーは、価値のある仕事だと思っています。
ーー知らない人同士をつなげ続けるのは疲れませんか?
西井:いえ、初対面の人としゃべったり、人をつないだりすることそのものが元々好きなので、コミュニティマネジャーは私にとって“天職”だと思いながらやっています。
大学時代から、学生同士が集まるイベントを趣味で主催していました。その頃は、「コミュニティマネジャー」という職種は一般的ではなかったです。周りからは「お金にならないことに力を入れすぎじゃないか」と、よく言われていました(笑)。

学生時代に企画したイベント=提供
でも、いまや職種として「コミュニティマネジャー」が認識されはじめて、対価もきちんと支払われるようになりました。自分の好きなことを続けてきて、本当によかったと感じています。
現在している副業・兼業の内容について、なるべく具体的に教えてください。
コミュニティマネージャー&大学非常勤講師
ワークスタイリングというシェアオフィスで、コミュニティマネージャーをやっております。
仕事内容としては、シェアオフィスに入居している会員さん同士をマッチングして協業の場づくりをしたり、会員にとってビジネスのプラスになるようなイベントの企画運営をしております。
元々人と人を繋ぐのが好きで、学生団体でも参加者同士を繋ぐイベントを千人規模で実施していたりしたのですが、それを仕事としてやっていくのは厳しいなと思っていたので、今は「コミュニテ...
ィマネージャー」として人と人を繋ぐことが仕事にできる時代になって趣味を仕事にできていて有難い時代だなあと感じています。
私を媒介に、人と人を繋ぐことで、新たな機会が生まれたり、新しいサービスが生まれたりするとこを見ると、やりがいを感じます!
コミュマネ以外にも、「旅する薬剤師」を通して地方薬局と都心薬剤師をマッチングするサービスを運営しているのですが、そのような、人と人が繋がるサービスをこれからももっと生み出してゆきたいなと考えております!!
また、副業として、近畿大学の経営学部と、大阪デザイン&テクノロジー専門学校にて非常勤講師をしております。
コミュマネや非常勤講師など、色んな仕事をしたり、色んなサービスを立ち上げることで、その分新しい人との出会いが生まれるので、今後も色んな人と働いて新たなサービスを展開してゆきたいと考えております。
ーー起業したNEWRON株式会社(ニューロン)では何をしていますか?
西井:展開している事業は5つです。
受託型のビジネスが3つあって、まずアイデアソンに力をいれています。例を挙げると、大阪府堺市の「起業家輩出プログラム」の企画・運営に携わりました。このほかに若者向けの商品開発や販促のために定性調査を行う「マーケティング支援事業」。若手起業家たちが対象の「ファシリテーション育成プログラム」も提供しています。
また自社ビジネスとして、健康に関する事業も2つ運営しています。地方の薬剤師不足を解決すべく、都心の薬剤師と地方の薬局をマッチングするプラットフォーム「旅する薬剤師」がその一つです。

「旅する薬剤師」のメンバーたちと西井さん(中央)=提供
そして、桑茶ティートや菊芋フロランタンなど、美味しくて体にも健康的な食品を薬剤師たちが開発する「Healthy&Lab.」を運営しています。
ーーマーケティング支援事業は、若者へのインタビューが中心でしょうか?
西井:このサービスも「アイデアソン」の形で、一般的な定性インタビューとは異なります。クライアント企業とZ世代の消費者たちを集めて、新商品や販促のアイデアについて一緒にディスカッションします。
例えば、菓子メーカーからの依頼で、お菓子を若者たちと実際に食べながら、今ある商品をどうエンドユーザーに訴求すれば良いのかといったことを話し合いました。

マーケティング支援事業での西井さん(手前右)=提供
ーー大学では薬学部でした。なぜ起業の道を選んだのですか?
西井:薬学の道を選んだのは、体が元々弱くて薬もよく飲んでいたので、薬剤師になって自分のような患者を助けたいと思っていました。でも、実習を通じて自分には薬剤師としての働き方が少し向いてないなと気づきました。
そこから一般企業に就活しようと考えて、たくさんのインターンシップに参加しました。短期で20社、長期では10社ほどで働きましたね。
インターン活動を通じて「新しいアイデアを生み出す瞬間」が自分でワクワクすると知りました。ただ、大企業をはじめ多くの企業では下積みが求められて、新卒から企画や事業開発に携わることが難しいのが一般的です。
ならば、自分でアイデアを発散できる事業を生み出そうと思い、学生時代にNEWRONを立ち上げました。

健康食品を販売する西井さん(左)=提供
ーー起業には心理的ハードルを感じる人もいます。転機は何かありましたか?
西井:学生時代に好きでヒッチハイクをしてたんですけど、ドライバーに首を絞められて、殺されかけた経験があるんです。「人はいつ死ぬかわからんな」と、そのときに感じまして......。
どうにかそこから助かったのですが、死にかけた時に走馬灯を見たんですよ。「やりたいことやれなかった人生だな」って思い返して、そこから「好きなことを今すぐしよう」というマインドになって、起業にも踏み切れたっていう感じです。
ーー走馬灯って本当にあるんですね。振り返ってもらって恐縮ですが、何が見えましたか?
西井:当時やろうとしてた事業というか。こういうことやりたいみたいなのがあったんですけど、好きでやりたかったってよりも、見返そうみたいな反骨心でやっていたことだったんですよ。それって全然楽しくなかったな、みたいなところが思い返されました。
時系列で、昔の生い立ちから今やってることとかにつながって、「なんか幸せじゃない人生だったな」みたいになって思い返していました。
それ以来、「好き」や「やりたいと思うこと」をするようには意識してるので、
いつ死んでもいいかなとは思いつつ、今はやっています。
ーー人と人とをつなぐ仕事が、ご自身の幸福感につながっていますか?
西井:そうですね。私がつないだ人たち同士が開いたイベントに誘ってもらったり、出会いがあったことで生まれた新しいサービスを自分が使ったり。そういったときに、自分が人と人をつないだからこそ、こうしたアイデアが生まれたのかって感じると、すごい嬉しいです。
この職業について未経験の人に説明するとしたら、どんなキャッチコピーをつけますか?
次回は、西井さんの紹介で、コーチング業をするかたわら、レンタルオフィスなどでもコミュニティマネジャーをする新福剣士さんへのインタビューを公開予定です。
(文:池田怜央、映像編集:長田千弘、デザイン:高木菜々子、編集:野上英文)