会社からの期待値を自覚せよ 目指すは会社人間からの脱却

会社からの期待値を自覚せよ 目指すは会社人間からの脱却

    給与が上がらず、1社だけでは稼げない時代。転職や副業を考える若い人たちが多い中、古い考えの経営やマネジメントでは、人材流出や生産性の悪化を招きかねません。

    転職・副業時代に会社には何が求められているのでしょうか。

    『稼ぎ方2.0』を出版し、最新のキャリア事情に詳しい元LinkedIn(リンクトイン)日本代表の村上臣さんに、インタビューしました。(第2回/全3回)

    目次

    1社だけでは稼げない!

    「平日24時間、会社のために」だった時代

    ──大企業体質だと、いまの転職や副業ブームは頭が痛いですね。

    村上 :大企業で働く多くの人たちは、これまで「平日の時間をすべて会社のために使う」という幻想のもとで働いてきたからですよね。副業・兼業が当たり前になってきている時代です。大きな会社の文化にどっぷり浸かっている人は難しい部分もあるでしょうが、マインドを変えていく必要があります。

    日本の戦後復興は製造業を中心に成し遂げたこともあって、朝9時から夕方5時まで工場にいて、昼ごはんを一緒に食べ、夜も連れ立って飲みに行くという生活が続きました。それでうまく回っていた時期も確かにあります。

    しかし、デメリットとして長時間労働が常態化しました。

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    公私の別があやふやで、おおげさにいえば、平日の24時間すべてを会社のために使うことさえいとわない。ただこれは、法律的に間違いと言わざるを得ません。

    「君はここまで達成すればオッケーだよ」

    ──時代とともに、上司や管理職の役割はどう変わっていますか?

    村上 :最近は就業時間内に、期待された仕事がちゃんと設定されるなど、残業自体が減っています。規定時間内に、期待された仕事をちゃんとこなしたかどうかが、問われる時代となりました。

    上司の役割も、「君はここまで達成すればオッケーだよ」と日々の業務の中で伝えることに重点が移っています。

    こうした背景で、上司と部下が1対1で面談する「1on1」が浸透してきました。

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    ──1on1では、何を意識すべきでしょうか?

    村上 :1on1は、部下から日常の悩みや不安、業務の課題などに耳を傾けて積極的に引き出すことが主な目的ですが、こうした個々の面談を通じて、部下に仕事で期待する到達点をきっちり伝えていくことが大切です。

    ところが、この期待値を伝え切れてない管理職が目立ちます。

    その結果、部下は「この会社や上司には、いまも古臭い労働慣習が残っている」と思い込み、「退社時間を過ぎたけど、会社にいた方が良さそうだ」「上司より先に帰るのはまずい」などと勘違いしてしまいます。

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    「最低限」の社員にこそ目標地点を示す

    ──達成点を伝えると「最低限の仕事しかしない人」も出ますよね?

    村上 :クビにならない程度に働けばいいや、という人は昔も今も存在します。

    そういう人たちに対して、管理職にもリスキリングが必要です。新しいマネジメント、つまり労働時間で縛って管理するのではなく、仕事上の期待値を明確に伝え、成果ベースでの評価や指導に変えるのです。

    最近、よく使われているMBOやOKR(どちらも目標管理手法の一つ)は、そのためにあるといっていいでしょう。


    MBO:Management by Objectivesの略称で、「目標による管理」

    OKR:Objectives and Key Resultsの略称で、「達成目標」と達成度を測る「主要な成果」を設定する


    こうした手法を使って、部下にあらかじめバーの高さを示し、「ここに到達したらOK!」「さらに超えればボーナスが増えるかもよ」と伝えていくのです。

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    インタビューに答える村上さん

    「働きたい職場」にするのが管理職の仕事

    ──いつ転職するかもわからない社員。悩む管理職もいます。

    村上 :そうした人たちを「相手にしたくない」とぼやく管理職は、自分の仕事を履き違えていませんか。

    会社へのロイヤリティはもちろん大切です。そのために会社は、職場のカルチャーを良くしたり、フレキシブルな働き方を提案したりと、さまざまな改革をしています。

    でも、それは良い人材を採用するために必要な会社間競争の結果です。

    働く個人からすれば、どの会社に行くのも自由です。職業選択の自由は憲法に規定されていますから。

    だからこそ、「この会社でぜひ働きたい」と思えるような魅力ある職場づくりが重要になっています。管理職の仕事は、そういう職場に変えていくことなのです。

    部下を鼓舞したり、アドバイスをしたり、悩みを聞いたりすることもその一つです。管理職が良い職場をつくっていくことで、優秀な人材もロイヤリティをもって働いてくれるわけです。

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    人材への投資で成長の機会を与える

    ──魅力のある会社にするために、ほかにするべきことはありますか?

    村上 :経営陣がどんどん投資することですね。例えば、成長の機会を与える投資です。


    「この会社にいると、いろいろな部署を経験できて、キャリア形成に役立つ」

    「新しいスキルを学ぶ機会が豊富に用意されている」


    こうしたことを実現するための投資です。

    その上でも人材が流出したら、また新しく人を採ればいい。このような動きが日常化すれば、労働市場の流動性は高まり、優秀な新しい人も採用しやすくなります。

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    プロジェクト単位の働き方が理想形

    ──良い人材を採りたければ、環境づくりが大切だということですね。

    村上 :環境が整ってくると、会社としても個々の実力に見合った仕事を期待値を込めて、ちゃんと割り振れるようになります。社員側も、その自覚を持って仕事に取り組みます。

    こうした好循環ができ、数年単位でプロジェクトのように仕事内容が変わっていく職場が理想形だと思います。

    一つのプロジェクトが終わった時点で、会社を去る人が出てくるでしょう。彼らは「次のプロジェクトが、いまひとつなので他社に移ります」といった理由を挙げます。

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    インタビューに答える村上さん

    会社側からみれば、これは一時的にせよ大きな損失です。それでも、最後は「いつでも戻っておいで」と気持ちよく送り出した方がいい。

    ここで大事なのは、会社を去った人と定期的に連絡をとり続けることです。

    「最近どう? 今度おもしろいプロジェクトが立ち上がるから戻ってこないか?」

    日本でもそんな風景が日常的に見られるようになるといいですね。

    (取材・文:比嘉太一、野上英文、撮影:飛塚倫久、編集:筒井智子、デザイン:高木菜々子)