今夜1人でBARを訪れたのは大手情報機器メーカーでシステムエンジニアとして働いているイチローさん(仮名)。社会人6年目の31歳です。
上司から指示された通りに資料が作成できず、提出期限を守ることができない日々を送っています。
数日前に医者から発達障害の一つ、「ADHD」(注意欠如・多動症)と診断され、悩んでいるようです。
“新卒相談BAR”、本日も開店です。
今夜1人でBARを訪れたのは大手情報機器メーカーでシステムエンジニアとして働いているイチローさん(仮名)。社会人6年目の31歳です。
上司から指示された通りに資料が作成できず、提出期限を守ることができない日々を送っています。
数日前に医者から発達障害の一つ、「ADHD」(注意欠如・多動症)と診断され、悩んでいるようです。
“新卒相談BAR”、本日も開店です。
午後8時すぎ。祝日の前日とあって、いつもより賑わいを見せている店内。カウンター席に座るイチローさんの姿がありました。
偶然、隣に座った客と打ち解けている様子。
終電間際で店から客がいなくなった頃、イチローさんがこう呟きました。
イチロー「最近ちょっと、仕事で壁にぶち当たってしまって…仕事ができないって感じになっちゃったんです」
「大さん、お願いします」
イチローさんが大さんを呼びました。
BARでアドバイザーとしてカウンター席に座るのは、年間300件以上の就職や転職の相談に乗っている店主の二宮大さんです。
大「何でぶち当たったの?」
イチロー「資料作りの仕事ができず悩んでいたら、数日前に、医者からADHDと診断されてしまって…転職するか悩んでいます」
イチローさんは現在、所属するセクションの会議に提出する資料作りを任されているといいます。
イチロー「上司からは『資料に私の考えをまとめて欲しい』と指示が飛ぶのですが、内容がまとめられずに詰められてばかりです」
「どうまとめていいのか分からず、上司とのやり取りが延々と続いて、結局タイムリミットになってしまいます。上司が代理で作成している状況です」
「上司からは『やる気あるの?』って言われるのが日常で、自分は何でこんなに仕事ができないのか悩んでしまっていたんです」
仕事がうまくできないことに悩んでいたイチローさん。社会人2年目の時に、長時間労働で心身ともに疲弊し、仕事を休んだ際に診断を受けた医師の存在を思い出したそう。
イチロー「仕事ができないことを誰に相談していいか分からなくて。藁にもすがる思いで、以前お世話になった精神科病院の医師のところに相談に行ったんです。そしたら医師からはADHDの気質があるから検査受けようって言われて…」
「結果はADHDでした。ショックでしたが、仕事ができないことは僕のやる気の問題ではなかったと知って、正直ほっとしたところもありました」
大「なるほどね…」
「あんまり難しく受け止めすぎなくてもいいかなって思う。イチローは新卒から6年間仕事してきたという事実もあるんだから、自信を持ったほうがいい」
注意欠如・多動症とも言われている「ADHD」。
注意を持続させることが困難であったり、順序立てて行動することが苦手だったり、落ち着きがないなどの特徴がある症状ですが、大さんはこれも一つの「個性」だと強調します。
大「発達障害の人って、他の人と何か異なる能力に長けているケースが結構ある。例えば事務作業は苦手だったりするけど、計算が得意だったり。その得意なことがハマる仕事なら、成功できる」
「日本では発達障害ってすごくネガティブに捉えられやすいよね。海外では発達障害って、『一つの個性だよね』と言われていたりもする」
イチロー「そうですかね…」
大「ネガティブに捉えるのではなく、一つの個性として捉え、それをどう活かしていくかを考えたほうがいい」
「だから悲観する必要はないよ。多動的な症状があって、それを自覚しているのであれば、自分なら『これができる』『これが得意』っていう考え方に転換してみていいと思う」
「同時に6年間、しっかり働けている事実がある。問題を起こしたこともあるかもしれないけれど、社会にちゃんと適応して働いているから大丈夫。それは事実として証明されているわけだから」
「俺なんて、気合入れて頑張ろうと新卒で入った会社、結果的に10カ月で辞めてるんだから。俺の方が社会不適応かもよ。その状態から自分の頑張れることを探して、個人事業主から始めて、法人化していまの仕事続けられてる」
イチローさんは発達障害と診断された友達がいることを明かしました。
イチロー「発達障害でハマる仕事かどうかっていう話は僕の友人もしていました。僕の友人は大手電気機器メーカーでSEをやっています」
「すぐに記憶が抜けて物事を忘れがちな人で、僕と同様に『使えないやつ』ってレッテルが貼られて部署を転々としていたんです。でも営業に配属になった途端、たくさん契約を取ってきて結果を残していると聞いてます」
大「ほら、周りにもいるじゃん。そういうことマジである」
イチロー「それを聞いて、僕も何かにハマる仕事が見つかれば、何とか社会でやっていけそうだと思えました」
「転職を前提に動いてみようかと考えています。逃げの転職になるかもしれませんが…」
大「そうだね。確かに転職活動しながら動いてみてもいいかも。ただ、動くときには悲観的にならないこと。自分で発達障害っていうネガティブを背負いすぎないことが必要かな」
大さんは「逃げ」の考えで転職活動はしてはならないと説きます。
大「逃げのマインドをメインで転職してしまうと、転職先の会社でハマらなかったら、また逃げようってなってしまうよ」
「転職活動をする前に、何のために転職活動をするのか、転職を通じて何を得ようとしているのかしっかり考えることが大切」
「自分の個性がハマるところを探すために転職活動をするって決めたのであれば、過去の事例をめっちゃ調べたほうがいい」
「ADHDって診断をされた人が成功に至ったエピソードは、多分ネットだけでもだいぶ調べられるし、同じような境遇の人で本を書いている人もいるかも。その関連本を読んでみるとか、いろんなケースを知ることが大事」
イチロー「そうですね。事例を知るだけでも前向きになれそうです」
大「まずは、リサーチ。その後また話そう。いつでも相談に乗るから」
イチロー「ありがとうございます。まずやることが整理できました。転職活動を本格的に初めてみます」
イチローさん、大さんに励まされたことで次の一歩を踏み出せそうです。
◇
働く若者たちの本音が聞こえてくる「新卒相談BAR」。連載シリーズは隔週で金曜に公開予定。
(取材・文:比嘉太一、撮影:是枝右恭、デザイン:高木菜々子、編集:筒井智子)