実績ゼロ、掲げた“24時間対応”「3カ月で300万円」達成

実績ゼロ、掲げた“24時間対応”「3カ月で300万円」達成

大学を卒業したら正社員にーー。そんなよくある進路をあえて選ばず、社会人1年目からフリーランスとして働く20代がいます。

新卒1年目でWebデザインスクールに3カ月半通ったのち、独立した佐藤菜渼さん(23)。当初は営業やSNS発信を一切せずに、目標とした「300万円受注」を3カ月で達成したといいます。

実績も経験もないなか、掲げたのは“24時間対応”というPRコピー。戦略的に稼ぐ力をつけていく彼女は、胸の内である感情に突き動かされてきました。

新卒1年目でフリーランスって、どうよ?

目次

コロナ禍で留学断念、自分と向き合った

――現在の仕事内容や働く時間について教えてください。

佐藤:フリーランスのWebデザイナーとして、企業案件をメインに活動しています。「やるときはやる! 休む時は休む!」とメリハリをつけていて、稼働時間は決めていません。

仕事場は、名古屋の自宅(シェアハウス)か、東京です。知り合いの飲食店を手伝ったり友人に会ったりするため、月の半分ぐらい東京に居ることもあります。

シェアハウスには、フリーランスとして働く人たちがたくさん住んでいるので、共用部で皆とパソコンを並べて仕事をすることも多く、楽しく生活しています。

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――外大を卒業後、就職せずに独立したのはなぜでしょう?

佐藤:コロナ禍で、予定していたニュージーランド留学が叶わなかったことがきっかけです。

学生時代からペット産業に興味があり、ドッグトレーニングを学ぼうと留学を計画していました。「日本ではペットに対する考え方がフェアじゃないな」と幼い頃から感じていたので、海外のドッグトレーニングを日本に広めることで、ペット産業への違和感を解消したかったんです。

――留学をコロナが原因であきらめたのですね。

佐藤:留学を断念して、自分と改めて向き合いました。

「ペット産業への違和感を解消することを目標に走ってきたけれど、スキルも経験も何もない自分が、仮にドッグトレーニングを身につけて帰国したとしても、できることって何もないんじゃないか」

こんな結論から、それまでは近くにあると思っていたキャリアのゴールが、すごく遠く感じてしまって…。まずは自分ができることを一つでも増やして、人として認められるようになろう、と独立を決めたのです。

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人付き合いが苦手 「克服したい」

――思い切りましたね。それまでの生き方も独立の決断に影響していますか?

佐藤:実は子ども時代に人間関係で悩むことが多く、人生のドン底を早くから経験して、人付き合いには人一倍の苦手意識を持っていました。

ただ、負けず嫌いな私は、あえて「人と接すること」に挑んできました。塾のアルバイトから始めて、ある程度慣れてきたら次はアパレルの接客、色んな年代の人と話せるようになるために居酒屋の店員という風に…。

当時は「周りを見返してやりたい」といった気持ちも強かったのですが、苦手意識を克服しながら、そうして人と接する仕事にやりがいも感じていました。

――コンプレックスを克服して「見返してやりたい」。強い思いですね。

佐藤:行動を続けていくなかで出会った選択肢の一つが、フリーランスという働き方です。

大学を卒業した後、3カ月半ほどWebデザインスクールに通って、“戦えるレベル”まで自分のスキルを短期間で引き上げました。

「新卒1年目フリーランス」ということもあり、「まずは大手案件を獲得して実績を作る」「300万円受注を達成するまで、SNS発信や営業は行わない」といった戦略を自分なりに考えたんです。

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営業せず「3カ月で300万円」の目標達成

――なぜ「3カ月で300万円」を目標金額に?

佐藤:単純に計算して「300万円はいけないだろうな」と思ったからです。手が届かないような金額に設定しないと意味がないと思って、この金額を設定しました。

SNS発信を当初しなかったのは、私が基本ネガティブ思考だからです。心理的安全性が保たれていないと暗い発信ばかりしてしまうだろうなと思って、手をつけずにいました。ネガティブなSNSって、営業という側面から見るとマイナスにしか働きませんから。

――自ら売り込まず、どうやって仕事を見つけましたか?

佐藤:「エージェントからの紹介」と「クラウドソーシングのスカウト機能」の2軸に絞って案件を獲得していました。とにかく「周りがやっていないことをやらないと自分は勝てない」と思っていたので、やらないことをしっかり決めて、そこは徹底しました。

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佐藤菜渼さんのツイッター

プロもお手軽な価格「どうしたら勝てるのか?」

――今はツイッターでも「24h 対応可能」を第一に掲げています。

佐藤:「24時間対応」にしたのは、新卒で経験もない私が提供できる価値は「時間」しかないと思ったからです。

デザインスクールを卒業した後に、「即戦力」を身につけたと思いながら、いざ案件獲得のために動こうと思って市場を見回したところ、正直「このままでは勝てない」と気づきました。

スキルマーケットなどのサイト(個人がサービスの売買を行う場を提供)を見ても、プロがお手頃な価格で出品していますから、単価を安くするだけでは私は勝てません。じゃあ「駆け出しです、なんでもやります!」と打ち出しても、見向きもされないだろうなって。

どうすれば周りに勝てるのか......。

真剣に考えた結果、「周りがやっていないことをやる」という答えにたどり着きました。その一つが「24時間対応」ですね。

――実際に夜中に依頼があって、返信されているんですか?

佐藤:午前2時とか3時とかに連絡が来ることはありますね。それぐらいの時間帯だと起きているので、5分以内には返します。夜型なので朝は弱いんですが、スマホの通知音は常に爆音に設定して、いつでも対応できるようにしています(笑)。

――「1人ブラック企業」にならないようバランスは取れていますか?

佐藤:駆け出し当初は単価も今より安くしていたし、「1時間すら寝れない」みたいな時期もあって大変でした。ただ、2022年12月に大手企業の案件を掲載したポートフォリオを公開してからは単価がぐっと上がり、目標に一気に近づいた感覚がありました。

そして23年3月には、月あたりで掲げた自分の目標金額を2週間で達成できました。

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――「まずは大手案件を獲得して実績を作る」という戦略も実りましたね。

佐藤:そうですね。それまでは履歴書だけで落とされてしまうことも多くあったので、「やっぱり経歴や社会人経験が足りないと、難しいんだな」と、なんとなく感じていました。

大手企業の案件をチャンスとして確実につかんで、ポートフォリオに落とし込んだところ、周りからの見る目が180度変わったなと感じました。「やっぱりそうなんだ」と腑に落ちましたね。

「唯一、自分の不安を埋めてくれる」

――「ハングリー精神」をどう養ってきたのでしょうか?

佐藤:私にとって、仕事って「初めて自分が認められた場所」なんです。学生時代にアルバイトで「自分は存在していていいんだ」と初めて思えたんですよ。

自分の中の「自信のなさ」や「不安」を埋めてくれる唯一のものだから、ハングリー精神と言うよりは、仕事をしていることで、自分の存在意義を確認している感じです。

300万円といった数字を目標に掲げたのも、ハングリー精神からではなくて、「それだけ自分が認めてもらえたんだ」という感覚を可視化できる一つが金額だと思ったからです。

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シェアハウスの仲間とはHPを一緒に制作した=提供

「仕事は生きがい」。キャリアを広げる挑戦へ

――「ペット産業を自らの手で変えたい」という夢を今も持っていますか?

佐藤:はい。ただ、本当にやりたいことは、色々な経験を重ねて、可能性を広げていった先に生まれる「余裕」の中でできると思っています。だから、今はとにかく「できること」を増やしたいです。

春からデザイン以外にも手を伸ばしてみようかな、と考え始めました。具体的には、飲食店舗のマネジメントや事業の立ち上げサポートなどです。

「新卒フリーランス」としてこれまで突っ走ってきた中で、取りこぼしていたビジネスの基本知識やデザイン以外の経験を、新しいチャレンジを通して身につけていきたいと思っています。

――フリーランスとしての働き方を続けるのでしょうか?

佐藤:今後、就職するのか、フリーランスを続けるのかは未定です。ただ、この1年間で「自分の思いや考えを証明できるのはフリーランスだけだ」と確信したので、今の働き方を手放したくない気持ちは強いですね。

「負けたくない」「見返したい」と思って、苦手意識を克服しようと挑み続けた学生時代と根本は変わっていません。仕事で人に認めてもらうことが私の生きがいなので、それを証明できる働き方が、今の自分には一番合っていると思います。

新卒1年目でフリーランスって、どうよ?
佐藤菜渼さん

(取材・文:coco、デザイン:高木菜々子、編集:野上英文)

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