配属ガチャの不安ゼロ? 新卒もジョブ型で「就社から就職へ」

配属ガチャの不安ゼロ? 新卒もジョブ型で「就社から就職へ」

    新卒の採用現場でいま、変化が起きています。

    職務や勤務地を限定せず新卒で正社員を一括採用する「メンバーシップ型雇用」から「ジョブ型雇用」へのシフトが、“定番”になりつつあります。

    企業の約6割が「職種別(ジョブ型)採用を実施している」という調査もあります。企業側の狙いや背景、さらに就活生の本音と対策に迫ります。

    目次

    日立「就社ではなく就職の意識を持って」

    大手電機メーカーの日立製作所は、新卒採用で「ジョブ型雇用」を今年度から「より強化する」と発表しました。ここ10年ほど、新卒採用に先駆けて社内の人事制度や中途採用で「ジョブ型」に徐々にシフトしてきました。グローバル市場での競争力を高めるためです。

    ポジションごとに職務内容や責任、求めるスキルなどを定めた「職務定義書」を定め、2022年度には約3万以上のポジションをジョブ型で整備。社員は自らキャリアを考え、会社は社員のキャリアをサポートする形だといいます。

    採用の新定番 ジョブ型 大企業で山が動く
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    新卒採用では今年から「ガクチカ」(学生時代に力をいれたこと)に関する質問は、エントリーシートや面接ですべて廃止。最終選考ではプレゼンを導入し、応募者の志望職種やキャリア志向を見定める方向にシフトしています。

    新卒にも「ジョブ型」を広げることについて、人財統括本部タレントアクイジション部長の進藤武揚さんは、「就活生も自分で仕事を選んで自身のキャリアを選択してもらう。『就社』ではなく『就職』だという意識を持ってもらいたい狙いがあります」と説明します。

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    日立製作所人財統括本部 タレントアクイジション部長・進藤武揚氏=東京都千代田区の日立製作所本社(比嘉太一撮影)

    ソニーやKDDIもジョブ型雇用を導入

    新卒採用で「ジョブ型」を導入しているのは、日立だけではありません。

    ソニーグループは2013年から、「コース別採用」として、新卒者を対象にジョブ型雇用を開始。現在、約100種類もの職種コースで採用活動を実施しています。

    また、KDDIは「OPENコース」と「WILLコース」を設けて公募を実施。

    メンバーシップ型の幅広い領域で活躍できる「OPENコース」と並行して、「WILLコース」はこれまで学んできた専門性や経験を生かしたい学生を対象にエンジニアやUXデザイン、カスタマーサービスなど計14種の職種で募集しています。

    採用の新定番 ジョブ型 大企業で山が動く
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    大企業中心に6割がジョブ型雇用を導入

    人材サービス事業のヒューマネージが企業361社に実施した調査によると、24年新卒採用で、公募者全員をジョブ型で採用すると答えた企業は約4割(39.3%)でした。

    一部の職種でジョブ型採用を実施すると答えた企業を合わせると、約6割(60.6%)の企業がジョブ型を導入していることが分かりました。

    「新卒採用においても『職種別採用』(ジョブ型採用)がかなり広がっており、職種別採用ではない場合も、半分以上が入社前に配属職種が決まっている」と同社は説明します。

    ジョブ型採用の実施状況

    ジョブ型採用の実施状況
    提供:ヒューマネージ

    ジョブ型採用を導入しているのは、どんな企業なのか。

    さらに詳しくみると、「大手・人気企業」群は、「すべて職種別(ジョブ型)採用」を実施した企業が最も多い(44.2%)のに対し、中小・成長企業群では、メンバーシップ型の「総合職採用(職種別採用なし)」が最も多い(45.1%)という結果でした。

    ジョブ型採用の実施状況(企業群別)

    ジョブ型採用の実施状況(企業群別)
    提供:ヒューマネージ

    調査では、「人手不足がある」と指摘した上で、「学生優位のいわゆる“売り手市場”が続く見込みで、就活生へのアピールや、内定辞退を避ける施策でジョブ型採用がさらに広がる」と予想しています。

    少子化の人材獲得。「ジョブ型の拡大は必然」

    「ジョブ型」新卒採用にも広がりを見せていることについて、雇用システムや労働市場に詳しい連合総研主幹研究員の中村天江さんはこう解説します。

    中村「少子化によって人材獲得競争が激しくなっているので、企業は若者にとって魅力的な仕事や環境作りに真剣に取り組むようになっています。大手企業を中心にジョブ型雇用が広がっているのも必然的な変化です」

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    「新卒採用のあり方はいま過渡期で、ジョブ型とメンバーシップ型のハイブリットも多いですが、ジョブ型だけにする企業も増えています。『この仕事をしたい』と希望がはっきりしている学生も、自身のキャリアを描きやすいジョブ型雇用を肯定的にとらえています」

    一方で、戸惑いを感じる学生への支援も必要だと説明します。

    中村「ジョブ型雇用の広がりにともなって、地方大学の先生から『キャリア格差が広がる』といわれたことがあります。情報量やインターンシップ等の機会の差によって、地域差がつかないようにする必要があります」

    「キャリアの選択肢は誰に対しても公平に開かれていることが理想です。大学のキャリアセンターの支援や企業インターンシップのプログラムも、従来の『就社型』から『就職型』にしていく必要があります」

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    就活生「配属ガチャ」の不安ない。一方、焦る声も

    ジョブ型雇用について、就活生はどのように感じているのでしょうか?

    合同企業説明会に訪れた早稲田大学4年の男子学生(21)はジョブ型採用を「歓迎する」と喜びます。

    「採用試験を受ける前に、自分のキャリアをじっくり考える機会になります。インターンでSNSマーケティングの実績があるので、ジョブ型の採用だとアピールもしっかりできそうです」

    「入社後のギャップやミスマッチも起こりにくいので、入社直後に辞めるということは少なくなると思います」

    学習院大学4年生の女子学生(21)も「ジョブ型なら、入社後にどの部署に配属されるのかが明確に決まっているので、『配属ガチャ』になる心配もないです」

    「安心して社会人になれます」と語ります。

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    一方、ジョブ型雇用に戸惑う学生もいます。

    日本大学4年の男子学生(22)は「自分が何をしたいか正直分からない状況で、ジョブ型が増えてしまうと焦ってしまいます」

    「社会人として働いた経験がないので、自分が目指すべき職種をこれだと明確にすることが難しく感じています」

    将来の自分をクリアにする情報収集と行動を

    就活生は「ジョブ型」にどんな対策をしたら良いのでしょうか。

    新卒でジョブ型を導入している企業の採用担当者はこう助言します。

    「ジョブ型雇用の面接では、学生がキャリアをどう歩みたいのか、なぜこの職種なのか、何ができるのかを面接で必ず深く聞きます」

    大学1、2年生から自身のキャリアと向き合い、進むべき方向性を決めている学生のほか、長期インターンシップに参加した学生は、そこで得た思いや印象的な体験を語るので、面接官は魅力的に感じるようです。

    採用の新定番 ジョブ型 大企業で山が動く
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    採用担当者は「まずは自分の興味や関心が高い職種や志望している業態、企業がどんなスケジュールで、どんな採用形態で募集しているのかをチェックすることが大切です」と強調します。

    「ネット情報だけに頼らず、OB・OG訪問などを通して早めに情報収集することが第一歩です。早い段階で職種を絞れれば、自分が何をしたいのか、どうキャリアを歩みたいのかが明確になり、説明会ではそれに沿った質問を、面接ではクリアに自分の考えを伝えられるでしょう」

    (取材・文:比嘉太一、デザイン:高木菜々子、編集:野上英文)