今夜、BARを訪れたのは、都内の人材紹介会社で働く27歳のアイさん(仮名)。
毎日、夜遅くまで働いているとのこと。プライベートでは周りの友人たちが結婚・出産ラッシュで自身のキャリアはこのままでよいのか、不安を抱えているようです。
“しごと相談BAR”、本日も開店です。
今夜、BARを訪れたのは、都内の人材紹介会社で働く27歳のアイさん(仮名)。
毎日、夜遅くまで働いているとのこと。プライベートでは周りの友人たちが結婚・出産ラッシュで自身のキャリアはこのままでよいのか、不安を抱えているようです。
“しごと相談BAR”、本日も開店です。
午後7時すぎ。店内のテーブルに置かれた花瓶に生けられたラナンキュラスから、甘いほのかな香りが漂っています。
そのテーブルに、同僚2人とハイボールのグラスを傾けるアイさんの姿がありました。
アイさんが今の人材紹介会社に転職したのは約2年前。新卒で働いた金融業からベンチャー企業に転職し、その後、人材紹介会社に移りました。
アイ「今、3社目で、夜遅い時間までバリバリ働いていて。仕事はメチャクチャ充実しているんですが、周りの友人たちが結婚・出産ラッシュで…少し焦りというか、このままでいいのかなぁーって思っています」
「チーン」
同席していた同僚が手元のベルを鳴らしました。
BARでアドバイザーとして席に座るのは、転職支援のエージェント「JACリクルートメント」で15年以上経験を積み、現在は独立したキャリアカウンセラーの山川裕子さん。
裕子「アイさんは今の会社に転職する前までは何をしていたの?」
アイ「最初は銀行で法人営業をやっていました。でも本当に合わなくて…その後、ベンチャーに転職したら、会社が潰れてしまったんです…」
裕子「そうだったんだね。ベンチャーでは営業やってたの?」
アイ「ベンチャーでは、ほとんどの業務をこなしていました」
裕子「すごいね!」
アイ「帰国子女なので、海外に興味がもともとあって、海外をターゲットにした商品を販売しているベンチャーに入りました。憧れの海外事業でしたが、1年も経たない間に倒産しちゃいました(笑)」
裕子「その後、どうして人材紹介業界に?」
アイ「倒産してすぐに転職サイトに登録して、転職エージェントの方と面談しました。その時、『夢とかありますか?』ってたずねられたんです」
「とっさに『何でもいいから仕事ください』って答えました。一度落ち着くよう促されて…」
「たくさんアドバイスをいただきました。その担当者の方と話しているうちに転職エージェントって、すごくいい仕事だなぁーと感じました」
「銀行の時は『何が何でも契約を取ってこい』と言われるような営業しかしていませんでした。でも人材紹介は、私みたいにキャリアに本当に困っている人を助けられるような業界なんだと感動したんです。それで人材紹介会社に入りました」
「今、売るためにお客さんと関わるのではなく、『あなたの人生どうしたいですか』って、聞けることがすごく嬉しいです」
転職を重ねた末に、現在の仕事自体はとても充実しているというアイさんですが、別の悩みがあるそうです。
アイ「今、夜10時に仕事が終わることも珍しくなくて、大変だけど楽しい感じです」
「でも、周りの友達は結婚とか出産ラッシュで、みんな幸せそうで…」
裕子「女性が一番考える時期だよね」
アイ「私も将来、子どもが欲しいし、幸せな家庭も築きたいという時に、この会社ではちょっと難しいかもって思っています。まだ相手もいないし、結婚予定はないのですが」
裕子「そうなんだね。仕事も好きだし、会社も好きなのに、将来を考えると不安って感じなんだ」
アイ「そうですね」
裕子「周りには仕事も家庭も両立している人はいないの?」
アイ「いないです。みんな結婚とかを機会に辞めていきます。辞めなかったとしても、会社の目標を達成しない方がだいたい多くて…」
「私、責任感が強いほうなので、未達はとても悔しいんです」
裕子「今の仕事が好きなのは充分に伝わってくるし、そんなふうに思える仕事にはなかなか出会えない。人材紹介の仕事は辞めないで、続けた方がいい」
「まだ決まっていないとはいえ、結婚や出産のことを考えると、今の状況では難しいと不安になる気持ちはわかる」
「フレキシブルに働ける人材紹介会社に転職してもいいし、今の会社で働きながら家庭を築くこともできると思う。私が前に勤めていた会社には、高い実績を出しているワーキングマザーも大勢いたよ」
「やりがいのある仕事を続けながら、家庭と両立して活躍している女性もたくさんいる。彼女たちに共通しているのは、選択と集中の使い分けが上手なこと」
アイさんの周囲にはロールモデルがいない様子ですが、裕子さんは今の環境から外に目を向けるよう助言します。
裕子「アイさんは帰国子女だし、外資の人材紹介会社や海外に強い人材紹介会社でもさらに活躍できると思う」
「仕事も家庭もどちらもあきらめずに両方を手に入れよう。仕事でいま実績を出しておくことは、将来の自分の選択肢の幅を広げることにきっとつながるから」
アイ「モヤモヤした気持ちが晴れました。今の仕事、本当に好きなので、すごく励まされました。ありがとうございました」
アイさんは明るい表情で店を後にしました。
◇
働く若者たちの本音が聞こえてくる「しごと相談BAR」。連載シリーズは金曜に公開予定。
(取材・文:比嘉太一、撮影:飛塚倫久、デザイン:高木菜々子、編集:筒井智子)