28歳の甲斐智明さん(仮名)は、中堅メーカーから専門商社に転職しました。引っ越しもして仕事にやる気でしたが、業務の進め方や職場カルチャーになじめません。ある日、取引でミスをしてからというもの緊張感が抜けません。産業医にDM(ダイレクトメール)を送って相談することにしました。
28歳の甲斐智明さん(仮名)は、中堅メーカーから専門商社に転職しました。引っ越しもして仕事にやる気でしたが、業務の進め方や職場カルチャーになじめません。ある日、取引でミスをしてからというもの緊張感が抜けません。産業医にDM(ダイレクトメール)を送って相談することにしました。
甲斐さんは、転職先の会社で住宅手当が出るため、通勤に便利な都市部のマンションに引っ越しました。心機一転、新しい業務に取り組み始めます。
ただ、慣れない専門用語や職場の新しい仕事の進め方に戸惑います。海外との時差にも対応する仕事のため、夜の9時や10時からオンライン会議に出ることも増えました。
職場は「仕事は見て覚えろ」という体育会系の雰囲気。前職のアットホームさを懐かしく感じるなか、ある日、取引でミスをしてしまいます。
それ以来、緊張感が抜けなくなりました。会社から案内があった産業医にメールを送ることにしました。
アポの日時に会社の会議室へ産業医で精神科医の堤多可弘さんを訪ねました。
堤先生「転職したことで、ご自分で思っている以上にストレスを感じているのですね。転職以外に環境の変化はありましたか?」
甲斐「そうですね、職場の近くに引っ越しました。最初はリフレッシュした気持ちだったんですが...」
堤先生「急激にいろいろな環境が変化したのですね」
甲斐「そう言われてみれば、確かにそうです」
堤先生「ビジネスパーソンは働く上で、主に4つのストレスがかかるとされています」
■働く人の4大ストレス
①業務のストレス
②人間関係のストレス
③職場環境のストレス
④プライベートに関係するストレス
堤先生「この4種類のストレスを足した合計が、自身の『負担感』となります。負担感が増えることでメンタル不調になると言われています」
甲斐「私は全部に当てはまりますね」
転職すると、①新しい仕事の進め方による業務の負担感、②新しい人間関係、③環境「職場のカルチャー」が大きく変わります。
さらに、甲斐さんは引っ越しで、④プライベートも急に変化しました。
堤先生「結果的に4大ストレスが同時にかかることになり、自覚している以上に負担感が大きなものになっているのでしょう」
甲斐「どうすればいいのでしょうか」
堤先生「本当は、職場に慣れてから引っ越しするなど、4大ストレスが一度にかからないようにすることが望ましいのですが、すでに引っ越しされている以上、それは仕方ありません。
転職時には、無意識のうちに自分への期待値を高く設定しがちです。これが原因で、慣れた環境ならば本来は気にならないような人間関係や職場関係、業務のストレスが、より強く感じられます。
まずは自分への期待値を少し下げて、1つずつできることを増やしてみてください」
甲斐「自分への期待値を下げる。具体的にはどんな心持ちですか?」
堤先生「新しい職場で働いていることで上出来といった具合です。上司とも定期的にコミュニケーションの場を設けて、転職後の進捗を共有できるといいですね。早く成果を出したい気持ちはわかりますが、心身を壊してしまっては元も子もありませんから」
「日常生活でも、あらかじめ『やらないこと』を決めておき、なるべく生活を変えないようにも努めるとよいでしょう」
一方、4大ストレスを事前にいくら理解していても、転居などの変化を伴わざるを得ないこともあるでしょう。
堤先生「そこで自分自身で心をどうメンテナンスするのか。仕事でも家庭でもない、第3の居場所や時間「サードプレイス」を持っておくことがお勧めです」
「居心地の良い場所に立ち寄ったり、気軽に話せる人や趣味が同じ人と話したりする時間を設けたりします。そうすると、ストレスフルな状態でも、自分を見失わずに済むでしょう」
できれば転職前に、相談できる友人や気分転換ができる場所をピックアップしておくことがいいといいます。「サードプレイス」の目星をつけておくことで、心にゆとりが生まれます。
また、①業務、②人間関係、③環境の3つで変化を抑えるには、転職に関連する副業を先にしてみたり、新しい職場の人と話す時間を持っておいたり、あらかじめフィット感を試しておくのも良いとされます。
堤先生「自分のスキルや経験を前倒しで新しい環境で試したり、受け入れ先の雰囲気を知っておいたりすることで、自信を持って次の職場でも働き始められるでしょう」
(文:渡辺裕子、デザイン:高木菜々子、編集:野上英文)