TOEICは年収に比例...とまらない副業解禁とリスキリング

TOEICは年収に比例...とまらない副業解禁とリスキリング

    転職市場が活況ですが、企業には即戦力志向が根強くあります。「リスキリング」の旗が振られるなか、どうすればキャリアアップにつなげられるでしょうか。また、副業容認の流れは止まらないのでしょうか?

    大手転職情報サイトdoda(デューダ)で長らく編集長を務めた大浦征也さんにインタビューしました。

    目次

    大浦征也
    大浦征也(おおうら・せいや) パーソルキャリア株式会社執行役員・doda編集長(2023年3月時点)。日本大学を卒業後、株式会社インテリジェンス(現パーソルキャリア)に入社。企業の採用支援や人事コンサルティング、キャリアアドバイザーなどを経て2017年から2023年3月までdodaの編集長を務めた。2019年、執行役員に就任。社外でもアスリートのセカンドキャリア支援を行う。

    ミスリードされる「ジョブ型」

    ——「転職リスク」への意識は変わってきていますか?

    大浦:かつては「転職すると年収が下がる」とか、「転職回数が多いと、再就職しにくくなる」と言われていましたが、解消されてきています。

    上場企業より、スタートアップのほうが年収が高いことがあります。転職回数自体も、ほとんど気にされなくなっていることも背景にあります。

    「ジョブ型」とは言いたくないですが、日本の人事制度が柔軟になってきて、転職によるデメリットがなくなってきているという感じですね。

    Ismagilov / iStock
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    ——「ジョブ型」と言いたくないというのは?

    大浦:メディアでよく「ジョブ型の時代」と言われていますが、そのジョブがなくなった時に契約も満了するという本来の言葉の考え方に、まだまだなっていないからです。

    IT専門職だけ人事制度が違うことを「ジョブ型」と言っているようなメディアの論調もあります。バズワードっぽく使われていますが、ちょっとミスリードだなと思います。

    ——ジョブ型と共にリスキリングも流行語です。

    大浦:「学び直し」は実は結構、昔から言われているんですよね。

    「リスキリング」に似たような話もずっとありました。例えば、「リカレント」。政権が変わる度に、名前が変わるような感じがあります。

    ただ、これまでは、内部労働市場の中で「40代からの学び直し」といった文脈が強かったんです。最近は、学び直しがもう少し若い頃から始まり、サイクルは短く、外部労働市場にも飛び出しています。

    そういう意味で、「リスキリング」は新しい定義でいいと思います。

    mapo / iStock
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    ただ、外部労働市場に出たときに通用するリスキリングは「共通のスキルセット」でないといけません。

    ——共通のスキルセット、ですか?

    大浦:エンジニアには、共通のスキルセットがありますよね。日本でエンジニア以外の職種で、共通のスキルセットとして可能性があるのは「バック部門」です。

    「バック部門」とは例えば、経理、人事、法務。社会人として学んだ後に、会計士や税理士、社労士、簿記などの資格を取る。これはまさにリスキリングです。こうした武器を持って転職しています。

    takasuu / iStock
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    その次に可能性があるのが「ミドル」です。

    「ミドル」とは商品企画やサービス開発、マーケティングなどですね。

    こうした分野のセミナーや講義で学んだことを職務経歴書に書く人は、昔から結構いました。例えば、未経験からデジタルマーケティングを学んで転職する、という人が徐々に出てきています。

    ITエンジニアの領域では、未経験から半年から1年間、エンジニアのブートキャンプ的な学びでAIエンジニアの基礎学習をして、その卒業の証やデータを持って、就職するケースもあります。Yahoo!がキラメックスと組んで、「テックアカデミー」の運営を始めて話題になりました。

    gguy44 / iStock
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    体系立ったリスキリングの欠如

    ——共通のスキルセットは、他の領域でもありますか?

    大浦:ITエンジニア以外に、体系立ったリスキリングはマーケティングやクリエイティブの世界に少しあるぐらい。ほかはまだ形になっていないのが実態です。

    一時期、営業スタイルをスクール化したケースが出てきましたが、形になりませんでした。

    今、改めて注目されているのがMBA(経営学修士)や、ビジネススクール系のメソッドです。これは共通のスキルセットになるからです。意識が高い人はそうしていますよね。

    Melpomenem / iStock
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    TOEIC点数と年収は比例

    ——キャリア形成や働き方で2023年、注目すべきトレンドは何でしょう?

    大浦:3つあります。

    1つ目は「グローバルを見据えたキャリア形成」です。

    円安による企業のグローバル進出が進み、 語学力やグローバル視点を持つ人材へのニーズが高まっています。

    わたしたちの調査では、TOEICの点数と年収の高さは正比例しています。今後、英語や中国語を主に語学力を求める企業は増加し、実践スキルをより重視する傾向になると思います。

    働く個人の側からみても、リモートワークの普及によって、グローバルを見据えたキャリアが選択肢に入りました。日本企業に勤めながら海外に移住するなど、居住地にとらわれない働き方を実践する人材が増えると思います。

    metamorworks / iStock
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    大浦:2つ目が、「テクノロジー×モノによる働き方改革」です。

    2023年は仮想オフィスやAIを活用し、オンラインでより快適に業務ができるツールが多く誕生すると思います。テレワークで課題になってきたメンタルの不調やコミュニケーション不足を解消し、働き方がより多様化するでしょう。

    こうしたツール開発に参入する企業も増加するので、 AIやメタバースといった高度なエンジニアリングスキルを持つ人材のニーズも高まると思います。

    cofotoisme / iStock
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    企業が副業容認に動くわけ

    大浦:3つ目が「副業×リスキリング」です。

    副業をやっている人のデータの取り方はさまざまです。

    クラウドワークスやランサーズで「趣味を仕事にしています」というのもあります。ただ最近、会社間での相互副業や、自社社員の副業支援などが活発化しています。キャリアにダイレクトに影響するような副業です。

    ユーチューバーや大学講師、スタートアップなどの副業を認める制度を導入した三井物産がその例です。「副業×リスキリング」は、今年のトレンドになる可能性があります。

    twinsterphoto / iStock
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    ——企業側が副業を認める流れの背景に何があるのしょうか?

    大浦:2つの要因があります。企業が「常用雇用をしたくない」となったときに、スポットで副業人材を受け入れることが起きています。

    それなのに、「自分のところの社員は副業をしてはだめだ」となると、社員からすると「何なの?」となりますよね。副業を認めざるを得なくなっているのが、一つの要因ですね。

    もう一つは、副業を解禁しないと、若者が来てくれないことです。半分、雰囲気みたいなものです。

    「副業OK」だからといって、副業をバンバンしているかというと、そうでもない。ただ、これだけ副業がトレンドみたいになっているなかで、「副業OKしてくれていない企業は嫌だな」と思われてしまいます。採用競争力の観点ですね。

    takasuu / iStock
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    大浦:副業解禁はもう止まらないでしょうね。今後ますます増えていくと思います。そのなかで企業も個人も、どうマネジメントしていくか。

    ファーストキャリアで何を選び、副業やリスキリングを組み合わせていきながら、どうキャリアデザインするか。「キャリア・オーナーシップ」と呼んでいますが、そうした意識が強い学生が増えています。

    副業をリスキリングとして取り組む人は、まだ2割にとどまります。ただ、副業者の約8割近くが、「副業がリスキリングに繋がった」と回答しています。ここに、転職やキャリアアップのヒントがあるのではないでしょうか。

    (文:誠之章、取材・編集:野上英文)