企業が「就活生を品定め」ではない。ちょうどいい関係性って?

企業が「就活生を品定め」ではない。ちょうどいい関係性って?


    この記事に登場するロールモデル

    就活に焦りはつきもの。ついこの間まで、みんなで飲んだり遊んだりしていたのに、気づけば友達は目の色を変えて就活に励んでいる。そんな様子を目の当たりにしたら、誰だって焦ってしまうものだと思います。

    でも、本当に焦らないといけないでしょうか。仕事は、生活の大半の時間を費やすものです。だったら、自分のペースで、自分に合った仕事を探してみませんか?

    この連載では、学生向けのキャリア支援講師をする山本梨央さんが、就活生に宛ててアドバイスをつづります。第2回は「就活生と企業のちょうどいい関係」。ぜひ肩の力を抜きながら、お読みください。

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    目次

    点数で決まる「受験」から、点数のない世界へ

    大学生と社会人の大きな違いってなんでしょう? 

    一つは「点数計算の有無」がある気がします。大学生までは文字通り「学生」。学校で学ぶことは、正しいか誤りかのテストで点数がつけられ、その結果で成績が出て、成績次第では場合によっては留年......なんてこともあると思います。

    大学に限らず、これまで中学受験、高校受験、大学受験を経験してきた人なら、次のステップでもまた、点数化されて合否が決まるという感覚の人も多いのではないでしょうか。

    たくさんの人が就職活動で焦ってしまう原因には、この「受験」と「就職活動」の違いがあるのかもしれません。

    受験勉強だったら、学校の試験だったら、与えられた教科書を覚えて、公式を覚えて、その通りに答えられたら合格の手応えがある。その正誤は日本全国共通だから、自分の実力も模試などで目星をつけられる。

    ところが就職活動となると、まったく同じ自己PRをしても、この会社では通過して、あの会社ではダメだった、なんてことが日常茶飯事。「就職活動の正解」を知りたいけれど、誰にとっても、どの企業にとっても正確な「基準」が見えない。目指すべきゴールがわからないままだから、不安になってしまう。そんなケースが往々にしてあるのだと思います。

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    Photo:iStock Caiaimage / Chris Ryan

    就活に「正解の基準」はない。相性を試す場

    では、就活において、誰にとっても、どの企業にもあてはまる「正解の基準」ってなんなんでしょう? 

    その答えは「ない」のだと思います。これは、私がこれまでにさまざまな大学や学校で就職支援をしたり、企業の採用コンサルをしたりしてきたことで導き出した、私なりの答えです。

    たとえば「1+1=2」というのは誰にとっても揺るぎない正解。しかし就職活動では、どの業界の、どの企業が、どんな業績で、これからどんな事業展開を考えていて、だからどんな人が欲しいのか、などなどさまざまな条件の掛け算で「その企業にとっての現段階での採用における正解」が導き出されます。

    たとえ同じ業界でも、企業が違えば、時代が違えば、求める人物も大きく異なります。

    では、正解がないならどうすればいいのか? 

    「企業が求める人物を想定して、その人物像になりきってみる」のは、もちろん違います。

    そうではなく、自然体で等身大の自分を求めている、相性ぴったりの企業と出会うこと。一緒に働きたいと思い合える企業と自分のマッチングを探ること。その「相性を試す」ことこそが、就職活動の要だと思うのです。

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    Photo:iStock / fotostorm

    就活生って選ばれる側? 選ぶ側?

    ここまでの前提でお気づきになった方もいらっしゃるかもしれません。就職活動は、正解の積み重ねで内定がもらえるものではない、ということを。

    企業に「選ばれる」ことがすべてだと思い、なかなか内定がもらえないから自分はダメだ……と落ち込んでしまう気持ちもわかります。私自身も50社受けて落ち続けたときには、自己肯定感という言葉の破片すらつかめないほど自信をなくしていました。

    でも、どちらが上でどちらが下、ということではありません。企業も就活生も平等に、お互いを選び合うことこそが「就職活動」です。

    どの会社に応募するのか、どの選考を進めるのか、どの内定を受諾するのか。すべてのフェーズにおいて、就活生自身が「企業を選ぶ」権利を持っているのです。極端なことを言えば、就活生がその企業を「選ばない」選択も持っているとも言えます。

    もちろん、就職活動や選考の過程で出会う企業の方々は、就活生よりも年齢が高く、経験値も豊富かもしれません。リスペクトできる大人に出会えるのも、就活の醍醐味の一つでしょう。

    でも、必要以上に上下関係を意識して、「企業に品定めをされるばかりだ」と自分をさげすむことはないのです。

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    Photo:iStock / http://www.fotogestoeber.de

    企業側も実は「選ばれる努力」をしている

    就活において、就活生と企業の関係は平等だ、と伝えました。

    とはいえ、「就活生が必死になって努力してアピールをしてばかりなのでは?」「企業は悠々と選んでいるだけなのでは?」と思う人もいて当然だと思います。

    ただ、それはきっと、努力をしている就活生が周りにたくさんいて、その姿勢が視界に入っているからなのではないでしょうか。

    実は企業の採用担当者の方々も「就活生に選ばれるための努力」を惜しまず日々を過ごしていることは、就活生の立場からは知る機会が少ないはずです。

    事業を拡大し続けるのであれば、企業にとって新規採用は避けて通れません。少子化が進むなかで、一人でも多く応募数を増やすために、内定辞退率を下げるために、入社後の定着率をあげるために、たゆまぬ努力を、寝る間も惜しんで積み重ねている採用担当者を数えきれないほど見てきました。

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    Photo:iStock / kazuma seki

    求人サービスを運用したり、企業の採用コンサルをしてみて気づいたことがあります。

    それは、各企業の採用担当者同士の業界を横断したつながりは、案外希薄だということ。業界内の他社であれば、採用においてライバルにもなりかねない。だから情報をあまり共有しない。そもそも、横のつながりをつくれるチャンスが少ない。すると、採用人事の担当者も同じように、もがきながら手探りで、答えのない「よりよい採用」を追求し続けるしかないのです。

    「よりよい内定」と「よりよい採用」......。ベクトルが異なるだけで、就活生が苦しんだりもがいたりしているのと、企業側も同じ状況だとも考えられます。

    そして、一緒に働くべき相性の良い相手を探して、お互いが手探りで自己アピールをし続けているのです。

    そんなふうに俯瞰してみると、必要以上に恐怖を感じたり、焦ったりしなくてもいい、という気持ちになってきませんか?

    Photo:iStock/maroke
    Photo:iStock/maroke

    自然体がお互いにとって一番いい理由

    不必要な緊張を解いて、自然体で自分らしく就職活動をする。それが一番いいと考える理由は、就活生のメンタルが健全に保たれることはもちろん、企業にとってもメリットがあるためです。

    たとえば、内定が欲しいためにある企業を受けようとしている学生Aさんがいたとしましょう。その企業にすでに入社が決まっている先輩Bさんがいて、どういう受け答えをしてエントリーシートが通り、面接もクリアできたのかを事前にたずねたとします。

    Aさんが、面接の受け答えで先輩Bさんのコピーのような発言・振る舞いをして、Aさんにも内定が出た場合。もしAさんがBさんとは性格も適性もまったく異なるタイプだったら、入社後に「会社と全然、相性が合わなかった」と、すぐに退職してしまうこともあり得る話です。

    採用が1回の面接で終わりということはないでしょう。ただ、面接の回数が多いとしても、一緒に働く長い長い時間に比べたら、その選考の時間は一時的ものにすぎません。限られた時間の中で「受かりそうな誰かのマネをする」だけでは、大きなミスマッチが起こりかねません。

    だからこそ、就職活動では自然体を心がけることをおすすめします。それは、あなたにとって心理的にラクなだけではなく、企業にとっても本質を見極める選考ができるから。長期的に見ても、互いにメリットでしかないのです。

    就活で求めるべき最も大事なことは「相性」。企業側の目線も少し想像できたら、「意気込んでいるのは、自分一人だけではない」と肩の力が抜けるかもしれません。必要以上に力んでしまったら深呼吸をして、等身大で就活に臨んでみませんか?

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    Photo:iStock / Anchiy

    (文: 山本梨央、デザイン:高木菜々子、編集:野上英文)