コロナ禍で“かぶりまくり”のガクチカ。廃止した日立が明かす採用面接で見たいWill

2023年3月29日(水)

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最終面接は5分の“プレゼン”、ガクチカ問わず

「あなたが解決したい社会課題と、それを日立のリソースを使ってどう解決するか、5分間でプレゼンしてください」

報道各社に3月に公開された、日立の最終面接のデモンストレーションの一幕。面接官がこう投げかけると、学生による5分間のプレゼンテーションが始まりました。

模擬面接を受けた学生は、2023年卒の内定者・​​​​冨島沙織さん(青山学院大学4年)。冨島さんは「モビリティ×女性の社会参画」をテーマにプレゼンをしました。

「安心・安全な移動手段がないために、雇用や教育の機会を失われている女性たちがいます。その課題を解決したい」

日立のリソースをどう活用しながら解決していくのか。自らの志望職種と重ねて、どのように関わっていきたいのか。さらに、入社後に成し遂げたいことも5分間を使って力強く語りました。

最終面接のデモでプレゼンをする2023年卒の内定者、​​​​冨島さん=3月、東京都千代田区の日立製作所本社(比嘉太一撮影)

プレゼンを聞いた面接官役の社員が、深掘りする質問を投げかけます。 「なぜ、この社会課題を取り上げたのでしょう」

「今後のキャリアをどうしていきたいと考えていますか?」

日立はこうしたプレゼン型の最終面接を2024年度採用から本格的にスタート。発表方法は自由で、スライドを使っても、動画を入れても、話すだけでも良いそうです。 合わせて「ガクチカに関する質問」は、エントリーシートやすべての面接で廃止。応募者の志望職種やキャリア志向を見定める方向へシフトすると説明しています。

最終面接のデモンストレーションで質問をする面接官(左)とプレゼンをした​​​​冨島さん=3月、東京都千代田区の日立製作所本社(比嘉太一撮影)

ガクチカと違って「未来をウソなく話せた」 

ガクチカのない面接。やってみると、どんな実感がわくのでしょうか。

冨島さんは「ガクチカだけでは伝えられない、自分が『できること』や『価値観』、未来をどうしたいか、といったことをうまく伝えることができた」と振り返ります。

「個人的な意見ですが、ガクチカなど過去のことになると、どうしても『良く見せないと』『成果を定量化しなければ』などと考えてしまって……。でも、プレゼン選考の内容は、未来のことを語るので、自分がウソをつかずに思っていることを正直に話すことができました」

自分を大きく見せようとしたり、つい話を盛ってしまいそうになったり。就活生からすれば、目の前の面接官にいかにPRして、どうにかして「気に入ってもらえるように」と力が入りがちです。

ただ、ガクチカの「重荷」が取っ払われ、過去から未来へとテーマ設定が変えられたことで、自分らしさが少し発揮できたというのです。

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「Webシステム作った」 似たり寄ったり

こうした感想は、日立の狙い通りです。

ガクチカ廃止のきっかけの一つは、コロナ禍で学生の様々な活動が制限されたことです。

人財統括本部タレントアクイジション部長の進藤武揚さんは、「2024年卒の大学生は入学した時からコロナ禍でした。これまでは部活やサークル活動を中心にお話しいただくことが多かったですが、コロナ禍では、どうしてもガクチカが画一化している印象がありました」。

“ガクチカの画一化”の実例として、最も多かったガクチカ話が、「みんなが会えるように、Webのシステムを作りました」という内容だったと明かします。

企業側がガクチカを通りいっぺんに聞いたところ、学生側の答える内容が重複。それが、面接全体の成果にも影響するようになりました。

「採用側も、深く話を聞いて人間性や人柄を読み解いていくのが難しく、面接内容が浅くなってしまっていました。選考方法を工夫しなければと考えました」

記者会見でガクチカを見直すことを説明する日立製作所人財統括本部 タレントアクイジション部長・進藤武揚氏=東京都千代田区の日立製作所本社(比嘉太一撮影)

「ジョブ型」が後押し、離職防止も期待

ガクチカを問わないと決めたもう一つの背景は、「ジョブ型」雇用へのシフトです。

日立は、グローバル市場での競争力を高めるため、約10年かけて社内の人事制度や中途採用で「ジョブ型」を導入してきました。

2024年度の採用計画では新卒、中途採用の割合をそれぞれ5割にする予定。その一環で今年の新卒採用から、学生の志向や希望職種とのマッチング、職務遂行能力を計るためにプレゼン型の面接の導入を決めたと言います。

ガクチカを問わずにプレゼンをさせることによって、「学生の倫理的思考力や課題発見力を知ることができるほか、入社後に就きたい職種への理解を促すことができ、結果的に離職を防ぐことも期待してます」(同社)

いまの就活は学生優位の「売り手市場」とされ、転職や副業が当たり前の時代に、企業側は「ミスマッチ」を入り口から防ぎたいと考えています。

そこで、ガクチカだけでなく、注目を集めるのが、みなさんのWill(やりたいこと)。日立はそれをみるためにプレゼン形式を取った、ということです。 働き始めたあとも、キャリア開発の一環で自らWillを練り直し、上司とすり合わせをする企業が増えています。こうした採用のトレンドから、日立1社だけでなく、「Willを問い、確認する」傾向は、新卒採用・転職の面接でより強まるでしょう。

冨島さんが抱いた感想のように、「会社というリソースを使って、未来のありたい社会と自分の姿を語る」。こうした目線をぜひ、準備に取り入れてみてください。

【新常識】日立が「実務型インターン」に本気な理由

取材・文:比嘉太一、デザイン:高木菜々子、編集:野上英文)