社会の第一線で活躍する人たちが、もしもう一度、キャリアのスタートラインに立ったなら? 就活生や働き出して間もない人たちへのメッセージを紹介します。
第1回は、エンジニア一筋でニューヨークに20年以上住むニューヨーク市立大学工科校機械工学科の学科長・准教授、マサトナカムラ(中村正人)さんです。
社会の第一線で活躍する人たちが、もしもう一度、キャリアのスタートラインに立ったなら? 就活生や働き出して間もない人たちへのメッセージを紹介します。
第1回は、エンジニア一筋でニューヨークに20年以上住むニューヨーク市立大学工科校機械工学科の学科長・准教授、マサトナカムラ(中村正人)さんです。
皆さんこんにちは、マサトナカムラです。
リレー投稿で「私がもう一度、キャリアを踏み出すスタートラインに立ったなら」というお題をもらいました。
トップバッターの私は「エンジニア人生一筋でニューヨークに20年以上住んでいる私が、今の世の中を見渡して今就職活動をするとしたら?」という内容で思いをつづってみたいと思います。
東京でシステム・エンジニアとして契約社員をしながら、風呂無し4畳半生活をして留学資金を貯めていた20代の頃、ストレスのせいか、私は脳梗塞で入院しました。そして、入院先の脳神経外科から、アメリカの大学院の願書を書いてFedex(世界最大手の国際宅配便会社)で送ったんです。
それほど留学したかったんですよね。
アメリカで博士号を取るのが夢だったんですが、それは日本ではエンジニアとして成長できることに限度を感じていたからなんです。もし私が日本でうまくいったり、それなりにOKな人生だったりしたら、アメリカには憧れなかったかもしれません。
田舎の若者が東京に憧れるように、北海道出身の私は、アメリカに憧れたんです。
多くの留学仲間は留学そのものを目標にしていましたが、私は留学してアメリカに残って、エンジニアリングの研究者になって、田舎の大学で教員として教えるということを目標にしました。そんな20代でした。
留学して以来、ニューヨークに20年以上住んでいる私のアイデンティティーを構成する要素はいろいろあります。
私の場合、11歳の娘の父であり、妻のハズバンドであることが大きな要素です。職業面ではエンジニアの要素が大きいと思います。
そして、大学教員、研究者、エデュケーター(教育者)で、日本の少子化を憂いて留学生と交流している篤志家(だと自分で思っている)で、今は慎ましくアメリカに住みながら、毎週ニューヨークとワシントンDCを行ったり来たりしている生活を送っています。
篤志家(とくしか):特に社会奉仕・慈善事業などを熱心に実行・支援する人。
私が就職活動をした当時の自分に向けて、今何かを伝えたいとしたら何を伝えるのか?
就職活動とは相手(企業)の都合もあることだし、思い通りにいかないもの。そして、それが続くと人間はくじけるものです。
当時の自分に伝えたいのは、「思い通りにいかないことが続くのが当たり前だと思って、自分の信じた道を進め」ということだと思います。
本当にやりたいことが分からないという人もいるかもしれません。
焦って先走ったり、迷走したり、悔しい思いをしたりするのは、就職活動をする上では「織り込み済み」で、まい進してほしいです。
これから始まる長いキャリアの中で、本当にやりたいことを見つけるのが20代の大事な作業だと思います。
例えば私の場合、なぜ米国でエンジニアになりたいのか自分で質問攻めにして、自分なりに納得のできる回答を持たなくてはならなかったんですね。
また、会社をどう選べばよいか、分からない場合もあります。
気持ちはわかります。でも、会社で迷っているようでは、会社に振り回されているんじゃないかなと考えるようにしています。
つまり人生の中心は、会社じゃないんです。中心は、あなたなんです。
例えば、あなたが役者を目指しているとしましょう。どうしても主役を取りたい、脇役なんて嫌だと思うかもしれない。でも本当は役に主も脇もないし、役そのものに素晴らしいも、ダメもない。
あるのは役者のあなたが凄いか、つまらないかだけ。ちょい役でも、凄い役者は主役より輝くんです。
会社は会社名で選ぶより、「自分が20代の人生を捧げてもいい」と思えるような熱中できる職種を選んで欲しいです。
「自分の強みが分からない」という気持ちもわかりますが、強みがあると実感するほど社会経験もないのかもしれないし、そもそも強みなんてまだ形成されていないかもしれない。あなたがパッションを感じる環境に、迷わず飛び込んでください。
大企業にいくべきか、スタートアップに行くべきか迷っている場合も多いと思います。
これも私は意見があって、大企業でも中小企業でもスタートアップでも、あなたはどのみち才能を開花させるから、会社の規模はあまり関係ないと思っていいと考えています。
要は会社は単なるステージで、「この人生の物語の中心は自分なんだ」と今一度、確認しましょう。
入社前に、業界や会社の人に会ったときに聞いておくべき質問は、仕事関係と仕事以外で、今人生で何に興味があって、どういうところにパッションをもっているのか、ということ。
意外と明確にスパッと答えられない場合が多いんですよ。
その業界・会社にいる先駆者たちが胸躍る人生を歩んでいるかどうか。見極めて欲しいと思います。それは多分、将来の自分の姿だと考えていいし、それに憧れるか・憧れないかという基準で考えていいと思います。自分の内なる声を素直に聞きましょう。
今の世の中を見渡して、自分自身が今年、就職活動をするとしたら? 何を考え、どんなことをするか。またどんな道に進むか?
私自身まず考えるのは、凄いエンジニアになるためには、どうしたらいいか? そのためには20代から自分が成長するために、あらゆる犠牲を払う覚悟や決意を自分に表明しようと考えます。
いつまでも大企業の中にいて、守られてばかりじゃ成長できないかもしれない。外の環境に出ないと成長できないかもしれない、と考えるようにしますね。
では、具体的にどんなことをするか?
日本の企業を目指している学生の方々には、支持を得られないかもしれませんが、私は就職活動をしながら英語の勉強を必ずやります。
そして入社したらお金を貯め、勉強した英語を生かして、数年以内に海外の大学院に行きます。日本基準ではなく、最初からアメリカのスタンダードで生きていけるエンジニアを目指すでしょうね。
そのためには、どんな道に進めばいいのでしょうか?
多分、大企業もいいけど、中小企業もしくは、個人事業主か契約社員でいろいろなプロジェクトを経験する道に進むと思います。
日本の大企業もいいですよ。でも、多分、居心地が良すぎるんじゃないかなーと思います。新卒採用、年功序列、終身雇用のエスカレーターに一度乗ってしまうと、安住しすぎてしまわないか、逆に危険を感じてしまいます。
そのエスカレーターは途中で火を吹いて壊れるかもしれません。特に新卒採用、年功序列、終身雇用の中でも、一番危険なのは横並びの新卒採用かなと思っているくらいです。
希望の会社に行けないかもしれない。そんな不安と、どう向き合ったらよいか分からない場合もあります。
しかし、このように考えることもできます
20代で自分の希望の会社に行ったけど、30代〜40代で、ストレスで挫折したり、「エスカレーター」が火を吹くかもしれない。
若い時の苦労は買ってでもしろとは思いませんが、エスカレーターの人生もしくは、誰かに運転してもらっている車に乗り続ける人生から早く気づくべき、とも言えます。
早かれ遅かれ、自分で運転するときが来ます。不安で震える手でハンドルを握り、恐怖でガクガク震える足で、アクセルを踏みましょう。
20代の自分が希望する会社・職種は、30代、40代、50代で希望する会社・職種とは違うことが多いです。
Appleの共同創業者スティーブ・ジョブズは、スタンフォード大学の伝説のスピーチで「Stay hungry, stay foolish」という言葉を引用しました。これは言い換えれば、「何もかも満たされて、合理主義的に賢くなることがいかに危険か」を示唆しているんだと思っています。
冒険を始めるときは大抵、孤独で不安なもの。
これから始まるその就職活動の冒険を支えるのは、あなた自身のワンダネスとパッション(好奇・驚きと情熱)。それが消えない限り、その冒険は有意義なものとなるでしょう。
君が君であるために、その矜持を守り続けて欲しいです。
就職活動、応援していますよ。グッドラック!!
私が次にバトンを渡すのは、黒﨑美穂さんです。是非そちらもお楽しみに!
(文:マサトナカムラ、編集:JobPicks編集部)
このシリーズは、「NewsPicksトピックス」とのコラボ企画です。「エンジニア人生一筋で米国ニューヨークに20年以上住んでいる私が、今の世の中を見渡して私自身が今就職活動をするとしたら?【自由テック#13】」(2023年2月27日)を編集しました。
マサトナカムラさんは、NewsPickstトピックスで「自由主義のテクノロジー」を連載しています。ぜひチェックしてみてください。
世界の政治・経済の中心であるニューヨークとワシントンDCを日々往来する筆者が、テクノロジーと自由主義がどのように相互依存しているのかを紹介。また、米大学でテクノロジーとデザインの教鞭を執りながら得た知見や考え方から、自由主義のダイナミズムと、それを支えるエマージング・テクノロジー(新興技術)について、大学・大学院レベルの専門知識も、一般の人にもわかりやすく解説する。