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【事業開発】日本で唯一、クリステンセンが認めた「事業立ち上げ人」の仕事術

【事業開発】日本で唯一、クリステンセンが認めた「事業立ち上げ人」の仕事術


この記事に登場するロールモデル

目次

  • コネなしの状態から活路を開く
  • 若手時代の開発経験が活きる
  • 事業開発で大切な3つの視点
  • 「傾聴」こそが武器になる

使命は、人があっと驚くようなビジネスを生み出すこと──。



スタートアップから大手まで、新規事業の企画・開発に注力する企業が増えている。



例えば金融機関や製造業で、老舗と呼ばれるような大企業では、ITの最新技術を用いて既存事業をデジタル化するような取り組みが進んでいる。



一方で、グーグルやアマゾン、アップルといった世界的なIT企業は、自動運転車や音声アシスタントなど、先端ITとハードウェアを組み合わせた新製品づくりに手を広げている。



ユーザー(顧客)が潜在的に求めていることを探り、今までにない製品を作るプロセスは、正解のない状況から自分たちなりの答えを探すことの連続だ。そのため、事業開発は刺激的でイノベーティブな「攻めの仕事」として、常に人気を博している。



しかし、企業の次の成長事業をつくるような重要な仕事になるため、求められる知識や経験の幅も広く、難しい役割とも言える。



そんな事業開発の仕事にフィットする人は、どんな特徴を持っているのだろうか。


イノベーション研究の世界的権威が認めた、日本屈指の「事業立ち上げ人」である津嶋辰郎さんのキャリアを通じて、ビズデブ(BizDev=Business Development)と呼ばれるこの仕事の中身に迫る。



コネなしの状態から活路を開く

インディージャパン津嶋辰郎さん
津嶋辰郎さんのキャリア曲線
波線が左側にある時期は専門性を「広げる」経験を、右側にある時期は「深める」経験をしている

津嶋さんのキャリアに大きな影響を与えた「イノベーション研究の世界的権威」とは、ハーバード・ビジネス・スクールの故クレイトン・クリステンセン教授だ。



世の中を一世風靡する製品を生み出した企業は、その強みを磨くことに専念するあまり、ユーザーが抱く別の需要に気付けなくなる。その結果、新たな魅力を持つ製品を開発した新興企業に、取って代わられてしまう──。



成功した大企業の栄枯盛衰や、「破壊的イノベーション」と呼ばれるマーケットを一新する製品が生まれる仕組みを、クリステンセンは「イノベーションのジレンマ(The Innovator's Dilemma)」と題する理論でまとめた。



1997年に出版された同名の書籍は世界中でベストセラーとなり、2020年1月の没後も、経済界に大きな影響を与えている。

クレイトン・クリステンセン
クレイトン・クリステンセン氏(Photo:The New York Times/Redux/アフロ)

そんな教授に認められ、同氏らが構築した新規事業開発の手法を日本で展開することを許された唯一の会社が、津嶋さんの立ち上げたイノベーション・コンサルティング企業インディージャパンだ。



《ソニーやHondaなど、かつての日本には破壊的イノベーションを生み出す企業がたくさんあった。しかし、現在は外国の新興企業に押され、影が薄くなっている。今の日本企業には、あなた方の知恵が必要だ》



津嶋さんは、共同創業者となる2名の同志と会社を立ち上げた2011年ごろ、こんな趣旨のメールを書いた。



送り先は、クリステンセンが仲間と共に創設した、経営コンサルティングファームのイノサイトだ。同社のホームページにあるinfo(問い合わせ窓口)から、何のコネクションもない状態で“ラブコール”を送ったのだ。




まだ立ち上げたばかりで実績もない会社の代表としては、かなり大胆な行動だ。



「でも、クリステンセンさんのような大物からしたら、日本の会社のほとんどは聞いたこともない会社のはず。それに、門戸を叩くのはタダだし、誰にも迷惑をかけませんからね(笑)」



最初は、当然というべきか、反応がなかった。が、懲りずに熱い思いを送り続けると、COO(最高執行責任者)から返信が来た。



「なぜ我々のやっていることに興味があるのか、もう少し詳しく聞かせてほしい」



そこからの津嶋さんは、あらゆる策を練って会う口実をつくり、関係性を深めた。



ある時は、当時のインディージャパンの顧客と共に、イノサイトのある米国ボストンを訪れるツアーを組んだ。彼らのリアルな課題を伝えることで、日本経済が抱える問題に興味を持ってもらうためだ。



「事業開発のポイントの一つとしても、突破力は欠かせません。それに、パートナーとして一緒にやっていくには、クリステンセンさんの理論やイノサイトの持つ価値観に共鳴していると示さなければなりません。だから、ビジネスライクな交渉より、素直に思いをぶつけようと考えました」



若手時代の開発経験が活きる



津嶋さんがこうした実践主義的な価値観を持つようになったのは、学生時代から没頭していたモノづくりの経験が大きい。



大阪府立大学では航空宇宙工学を専攻し、ゼロから鳥人間コンテストに挑戦するチームを立ち上げた。当時の大会新記録で優勝するまでの過程では、大阪にある中小企業の経営者や技術者に、理屈通りにはいかない開発の難しさを学んだという。

津嶋さんが鳥人間コンテストで優勝した際の飛行機
津嶋さんが鳥人間コンテストで優勝した際の飛行機

こうして設計開発の魅力に取り付かれた津嶋さんは、若手時代をモノづくりの世界で過ごす。



新卒で入社したレーシングカー設計・製造会社の童夢や、その後、株式公開を目指して創業メンバーとして加わった半導体関連メーカーの目白プレシジョン(現サーマプレシジョン)で、その実践範囲を製品開発から事業開発へと広げていく。



童夢では空力デザイナーとしてレーシングカーの設計に携わり、目白プレシジョンでは半導体露光装置の新規開発に取り組んだ。



どちらも、細部の調整は「匠の世界」だ。設計図に則って開発しても、思ったような挙動をしないケースは多々あった。

童夢でレーシングカー開発に携わっていた時代の津嶋さん
童夢でレーシングカー開発に携わっていた時代の津嶋さん

そんな“変数”の多い状況で試行錯誤を重ね、製品全体の性能を高めていく仕事は、没頭するに値するものだったという。合計で8年間、津嶋さんは現場で経験を重ねていく。



事業開発の仕事は、現場・現物・現実の「3つの現」を重視しながら、種々の課題を解決していかなければならない。この時期の開発経験は、現在行う新規事業のコンサルティングでも大いに役立っているという。

事業開発で大切な「3つの現」

しかし、この時期に、2つの新たな課題意識を持つようにもなった。



「一つは、私自身の性格。いろんなことに興味を持ち、目移りしてしまうタイプなので(笑)、何十年もかけて一つの専門性を極める技術者たちにはいずれ敵わなくなると思いました。



もう一つは、様々なプロが集まり精魂込めて製品を作っても、売れない原因が分からないまま、事業としての継続が難しくなるという現実に直面したことです」



実際、目白プレシジョンで新製品となる半導体露光装置を開発した時は、納品先となるいくつかのメーカーから高評価を得たものの、その後の拡販に苦労したという。



こうした経験から、先端技術を用いた事業の立ち上げや、研究開発の結果を事業化する際の戦略を学ぶ必要があると、製造業向けコンサルティングを行うiTiDコンサルティングに転職。顧客となる大手企業の、社内の論理を理解するのが目的だった。



さらに、日本企業にとって必要不可欠となりつつある事業のイノベーションを加速する当事者になりたいという思いで、大手企業の新規事業を支援するインディージャパンを立ち上げた。



事業開発で大切な3つの視点



前述した「イノベーションのジレンマ」が示すように、一度成功した大企業は、自分たちの力で新しいイノベーションを起こすのが難しい。



「だからこそ、外部から事業開発をコンサルティングして、新規事業に取り組む方々をサポートする必要があると思っています」



津嶋さんがインディージャパンで提供しているコンサルティングは、大きく3つだ。

津嶋さんが重視する3つの軸

中でも、事業開発で最も難しく、重要なのは、【2】の“ゼロイチ”を実行するための支援だと言う。



【1】のアドバイスも、既存事業の業績向上などで多忙を極める経営者に、意識変革を促すという意味では非常に重要だ。



クリステンセンのイノベーション理論を実践している企業事例を紹介したり、新規事業への中長期的な投資を提案しながら、経営のトップがイノベーションの創出を重視し続けるようにサポートする。



だが、本当の意味で新規事業を生み育てるには、【2】の部分をどれだけ正しくやり切れるかが大事になると津嶋さんは強調する。



「事業開発でよくある間違いは、新しい事業をゼロから立ち上げるために必要な取り組みと、ゼロから1になった事業を10〜100に伸ばしていく取り組みを同じだと思ってしまうということです」



例えば、まだ顧客もいない状態で「ユーザーが喜ぶ新製品」を作っていく過程は、失敗も含めて仮説検証の連続となる。



「地道にコツコツと開発をしていく中で、偶然、思わぬブレークスルーが生まれることもあります」



それに、過去の画期的な製品開発の物語を深掘りすると、本業とはほとんど関係のない研究開発の結果が、時代の変化で突然、主力事業に躍り出るケースも少なくない。



だからこそ、ゼロから1を生むプロセスでは、事業としてどのくらいの収益が見込めるか? という即物的な考え方とは違った戦術が必要となる。



手掛ける担当者にも、大きな売上を上げる既存事業の人たちから来る暗黙のプレッシャーを跳ね除けつつ、今までにない取り組みを進める胆力やチャレンジ精神が問われる。



一方で、その後に事業として成長させるには、クリステンセンが提唱する「ジョブ理論」などを参考にしながら、顧客ニーズの本質を捉えるのも重要だ。

ジョブ理論とは

この「模索と実利」を行き来しながら事業開発を進めるのは、一人の責任者、一つのチームでは難しい。



さらに、常に既存事業と比較されてしまうため、企業内のメンバーだけでは乗り越えることが難しい局面が多々発生する。



そこで、津嶋さんのような開発も理論も理解しているサポーターが、その時々で開発側・事業側の立場になり代わり、プロジェクト全体を支えることが効果を発揮する。



「事業開発では、カリスマ的な創業社長の直感で、物事が進んでいくケースも多いです。それを外部の人間が支援するとなると、明確な手法を基に、社内外の様々なプレーヤーを巻き込んで進めていくことが求められます。ここが難しい点ですが、世の中の不明確な部分を一つ一つ解き明かしていく面白さがあります」



「傾聴」こそが武器になる



「解き明かす」作業で大切なのは、自分の知っていること以外の事柄にも、興味を持って向き合う姿勢だ。



この点について、津嶋さんはクリステンセンとの交流で学んだことが大きいと話す。



2015年、津嶋さんは日本国内の数団体とのつながりから、クリステンセンの来日講演を実現している。「ご本人の言葉で日本企業にイノベーションを語ってほしい」と考え、ほとんど来日経験のなかったクリステンセンに登壇してもらう機会をつくろうと動いていたのだ。



ただ、来日調整を進めようにも、多忙を極めるクリステンセンとはなかなか連絡が取れない。そこで、初めてイノサイトを訪れた時のように突撃しようと、共同代表の津田真吾さんと一緒に米ボストンのホテルに待機してチャンスをうかがっていた。



するとある日、急遽アポイントが取れ、ハーバード・ビジネス・スクールを訪ねることに。そこには、学生と熱心にディスカッションする同氏の姿があった。

クリステンセンに来日講演を依頼しに行った時の津嶋さん(写真左)
クリステンセンに来日講演を依頼しに行った時の津嶋さん(写真左)

「クリステンセンさんは超がつく人気教授なので、授業が終わった後も、話を聞きたい学生が長蛇の列を作っていました。普通のエグゼクティブなら、次の予定があるからと、途中で打ち切るようなシチュエーションです。



でも、彼は話をさえぎることなく、驚くほど丁寧に質疑応答をしていました。その姿を見て、なかなかアポが取れない理由に納得すると共に、心を打たれたのです」



中には、突拍子もない質問を投げかける学生もいたかもしれない。それでも頭ごなしに否定せず、「なぜそう考えるのか」を思慮深く聞いて対話する。



その姿勢は、イノベーションという答えのない領域で本質を探ってきたクリステンセンの人生を象徴するシーンとも言えるだろう。



「事業開発をうまく進めるには、理論やプロセス以上に、他人の気持ちを知りながら『人間の根源的な欲求』や『人が驚くポイント』を学び続けることが重要になります。そんな大切な教えを、クリステンセンさんに教わった気がしています」



(取材・文:伊藤健吾、編集:佐藤留美、デザイン:九喜洋介)


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