クリエイティブ・アートディレクターの経験談やりがい

仕事の中で、最も楽しいと感じる瞬間はどんな時ですか?

  • 阿部 晶人
    現職者阿部 晶人
    経験: 26年
    株式会社カヤック

    ひらめいた時と、その発想が現実となり、それによって生まれた沢山の笑顔を見た時です。

    基本的に広告は、欲しくもない商品を見たくもない広告を見せて欲しい気にさせる という仕事なのですが、これが面白い。最初は欲しくなかった商品が、コミュニケーションアイデアによっていつの間にか買わずにはいられなくなっていく。人の気持ちをうまくすくって行動まで変えるのがぼくらの仕事です。


    しかしアイデアはそんな簡単には出てこない。仲間と一緒に延々と打ち合わせしたり、時には静まり返ったオフィスに一人残って悩み続ける日々。行き詰まったらぶらっと外...

    にでも出て、街を行き交う人の仕草や言葉に聞き耳を立てたり、電車に乗って中吊り広告の見出しを読んでみたり。コーヒー飲んだり。ここで粘れない人は向いていないです。 「おお、もしかしてこれはいけるのでは?」というアイデアは輝きが最初から違うのでだいたいわかります。超劣勢のオセロに1つ置いて全部がめくれていくようなそんな感覚。さて、今度は出たアイデアの原石を磨いて磨いて綺麗なダイヤモンドにしていく訳です。コピー、デザイン、テクニカルなど、いろんな特殊能力を持った仲間たちとね。お互いに良い物を作りたい意思があれば意見のぶつかり合いなども起きたりします。良い喧嘩です。会社内だけでなく、依頼主の会社の方とも一緒になって、その原石を囲んでかごめかごめで磨いていく感じ。 でもって、出来上がったものをお披露目する日がやって来る訳です。どれだけシミューレションしても、結果は実際蓋を開けてみなければわからない。みんなの胃がキリキリ痛むのはこのタイミングです。広告事例とはちょっと違いますが「うんこミュージアム」の時もやっぱりそうだった。不安過ぎて誰彼構わず怒鳴り散らしていた人もいた。げっそり痩せた人もいた。でも悩んでも仕方ない。やることは全部やった。娘を嫁に出すような気持ちで磨きあげたダイヤを送り出すのです。 いよいよ期待と不安が入り混じる公開初日。顔を手で隠して指の隙間から覗くような感覚で反応を見る。思ったほど反応がなかったらちょっとガッカリ。その原因を探って次に活かす。逆に想像以上の反応があれば物陰でこっそりほくそ笑む。「うんこミュージアム」では会場前に大行列ができていてほっと胸をなでおろした思い出があります。また館内で子供からおばあさんまでが大声で「うんこー!」って大声で叫んだり爆笑しているのを見てそれまでの苦労が報われました。舞台裏でスタッフやクライアントの仲間たちと小さくガッツポーズ。 広告の企画ではこうした体験を比較的短いサイクルで1年に何度も体験することになります。成功もあれば失敗もある。ひとときの休息を経て、また新しい商品のために頭をひねる毎日。大変だけど面白い。その原動力はアイデアが見つかった時の圧倒的快感と、成功したときの皆(スタッフ、クライアント、世の中)の笑顔なのです。


  • 安達 日向子
    現職者安達 日向子
    経験: 9年
    合同会社さかなデザイン

    好奇心をくすぐられるような出会いがつづく

    水産業をカッコよくーーそんな目標を掲げて活動するフィッシャーマン・ジャパンという団体でアートディレクターをしています。


    水産業、と一口に言っても、漁師さん、水産加工会社さん、仲買人さん、魚市場で働く人々、そして運送する人にそれらを支える行政の人たち、、

    それぞれの立場で、みなさん誇りをもって仕事をしていらっしゃいます。


    そんな彼らとプロジェクトを進めるには、まず「学ぶ」ことから始まります。

    その地域でどんな魚がとれているの?それって...

    どういう漁師さんがどんなふうにとってくるの?それを売るにはどの市場にもっていくの?さらにそこにたずさわる人はどんな人なのーー? 一人一人を話をしていくと、だんだんその街の水産業だけでなく、その町の文化やユニークさが見えてきます。例えば私が拠点を置いている宮城県石巻では、東洋一大きな魚市場があり、さらにその近くには水産加工会社がずらりとならんでいます。大型の船が多数入船し水揚げを行う超ビッグな産業なのです。 一方で現在コミットしている静岡県西伊豆町では、実は定期的に水揚げをして街に魚を降ろしているのは小型の定置網1隻のみ。さらに水産加工会社は1社だけで、魚市場は存在しません。 どちらが良い、というわけではなくて、そういった産業の規模やシステムが違えば、流通の仕組みも哲学もちょっと違う。そんな差異がその街のユニークネスになっているのです。 どの街に行っても、その現場で働く方々のお話は苦労も感じられますが同時に希望に満ちていることもしばしば。さらに水産業は閉鎖的な産業と言われていますが、いざ話を伺うとオープンに一緒に新しい取り組みに前向きになってくださる方も多く、チームができていく過程はまるでRPGゲームをプレイしているかのようにワクワクします。 「いつか昔操縦してたでかい船、もう一回動かしてぇんだ」 「もっとフレキシブルな職場にして、もっといろんな人が働ける環境をつくりたいんだ」 「子供たちによりよい状態で継がせてあげたいんだ」 海の現場には、夢を語る人たちがいます。彼らから今も水産業の仕事だけでなく、地域という目線で未来を考えること、チームで同じ方向へ向かうこと、短期的な予測ではなく、次世代、さらにその先の世代へとバトンをつなぐことを学びます。 グラフィックデザイン、マーケティング、PRなど、自分が生業にしていることを本質的に「未来をつくること」へつなげるには、そういった産業の現場にあるスピリットを自分の中でも育てて行くことが大切なのではないかと考えています。 そんな学びと驚きの多い水産業の世界を回遊できるのが、この仕事で一番楽しいことです。